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ふたつの名字

私にはふたつの名字がある。
旧姓と、夫と結婚して手に入れた名字だ。

『次男と結婚して、婿養子にしなさい』
小さな頃から母にそう言われていた。我が家は名家では決してないけれど、わたしは姉妹であるためどちらからが継がないと途絶えてしまうのだ。

なんとなく、できればそうしたいなと思っていた。
夫はたまたま次男だったが、婿養子を提案したところ拒否されたので諦めた。

私は結婚後も会社では旧姓を名乗っている。だから、夫の名字になった実感はなかった。
また、夫と同じ名字になってうれしい、そんな気持ちも私には全くなかった。
…あまり好きな名字じゃなかったのもある。笑

名字が変わったことを実感したのは育休中だった。旧姓を使わない。児童館で名乗るのは夫の名字だ。ママ友は私の旧姓を知らない。
すっかり夫の名字に慣れた自分がいた。


育休から復帰して、仕事でまた旧姓を使い始めた。

やっぱりわたしは旧姓がいい。
30数年間、一緒に過ごした名字。愛着がないわけない。自分の名前だって、旧姓との方がしっくりくる。
消したくない。旧姓の自分を。

夫の名字を名乗る時は母の自分。
旧姓を名乗る時は本当の自分。
なんとなくそんな気がして。

別にわたしは夫婦別姓を望んでいるわけじゃない。
旧姓への未練を成仏できていない、ひとりの女性として、夫にはあまり言えない思いをこうして綴っているのみ。
いわばお焚き上げ、と言えようか…

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