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本屋さんに入ったらどうしても古本屋さんで買いたくなった話

久しぶりに、ふらっと本屋さんに寄った。ぐわっと、活字で物語が進む小説の世界に浸りたい気分になって、本を買って帰ろうと決めた。そうすると、古本屋さんで本を買いたくなった。

中学生ぐらいまでは読書がとっても好きで、永遠に読んでいた覚えがある。高校生になったぐらいから段々と本に割く時間は減っていき、読みたいと思う本は常にありながらも、最近は専ら暇さえあればNetflixとかYoutubeに時間を費やしているなぁと思いながら、気が付いたら本屋さんに足を踏み入れていた。

思えば、本屋さんに入ること自体とても久しぶりだ。課題とかで読まなきゃいけない本はあったけれど、紙のページをめくって活字を追いたい気分になったのも久しぶりだ。大学の図書館はたまに通っているけれど、借りたい本が決まっていたり、課題をしに行ったりで、ふらふらと本棚を見る時間はあまりなかった。それに、大学の図書館は蔵書数の充実がすごい代わりに、ジャンルが場所ではっきり分かれているから、目指すジャンルの本棚の場所に足を運ばないといけない。それに比べて本屋さんは、軽く歩き回るだけでいろんな本に辿り着くことが出来る。

本屋さんは、ふらっと立ち寄るのが好きだ。特に目的の本やジャンルもなく、ただひたすら好きなだけ、流れるように表紙をなぞる。目が一瞬でも止まったものは手に取って裏表紙のあらすじや目次を軽く読む。惹かれる本の表紙やタイトル、ジャンルを見ると、その日の気分や好きなデザイン、ずっと変わらない興味分野が露骨に表れて、もう一人の自分が「うんうんそうだよな」って隣で頷いてくるような気分になる。時間を忘れて、自分の目と心が引っ張られるがままにうろうろするのが、たまらなく心地よい。あれも読みたい、これも気になる、がいっぱいになってうずうずしてきた頃、結局選べずにそっとお店を出ることがほとんどだ。いや、正直、本気で選ぼうとはしていない気がする。そもそも活字に溺れたい気分で立ち寄ることが多いから、タイトルやあらすじなどでたくさん活字を目で追ったことにおなかいっぱいになって、しっかり満足してしまうのだ。心が惹かれるままに素直に従って好きなだけ見て回った後の、なんとも言えない高揚感。ウィンドウショッピングで満足する感覚と似ている。実際、本のウィンドウショッピングと言ってもあながち間違っていないのではないだろうか。

いつもは読みたい本のリストが増えてお店を出てくるだけだが、なんだか今日はすごく新しい本を持ち帰りたい気持ちになった。最近は授業の課題で学術的な小難しい本や論文ばかりを読んでいたこともあり、小説が並ぶ本棚を見ていると、日本語の表現に包まれて、ゆっくり小説の世界に入り込みたくなった。気になるものが多すぎて迷いに迷っていると、なぜか、古本が欲しい!と突然思って、少し名残惜しい気持ちを残してその本屋さんを後にした。2つ先の角にBook Offがあったが、何となく、今行きたいのは古本屋さんだ、という直感に従って、おじいさんが営む近くの小さな古本屋さんに向かった。

たぶん、25分ぐらい居たと思う。

おじいさんはレジのカウンターで本を読んでいて、私が長いこと本棚を見て回っていても別に気にする様子はなかった。特に思い出なんてないのに、古本屋さんのあのほこりっぽい空気とにおいにどこか懐かしさを感じながら、騒がしいお店の外からちょっと切り離されたようなゆっくり流れる体感時間がすごく心地良かった。それぞれの本の最後のページに鉛筆の手書きで値段が記してあって、ゼロの文字の繋がり方とか筆圧とか、おじいさんが書き込んでいる姿が目に浮かんで、そんなところからも温かさを感じてみたりする。本当に彼が書いたかどうかは分からないんだけれど。

きみに決めた、3冊600円の札が貼られた、貫井徳郎『空白の叫び』。カウンターに持って行ってお金を払いながら長居してすみませんと言ったが、特にそれに対する返事はなくお釣りを渡された。手渡された3冊分の紙の重みに妙に心が躍って、新しい靴をおろした時のような、自分だけが知っているわくわく感にマスクの下で口角が緩んだ。週に何回か通ったら顔を覚えてもらって、おじいさんが読んでいる本とか好きな本のお話を聞けたりするのかな、それってちょっといいな、とか思いながらお礼を言って古本屋さんを後にした。

今日は、本当は献血をするためにこの駅に来たのだけれど、ヘモグロビン濃度が足りなくて血液検査で終わってしまった。ヘモグロビン濃度不足で3連敗中だ。せっかく電車で来たから、と思って近くをぶらついていたのだった。3冊分重くなったかばんを横に置いて、なんとなく今日の気持ちをいま書き残したくて、駅近のサンマルクカフェでこれを書いている。つらつらと打っていたら思ったより長くなってしまった。せっかくだから、少しだけ1冊目を読み始めてから、家に帰ろうと思う。

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