見出し画像

ライター仕事で気を付けていること~仕事は「はやさ」も大事の巻~

撮影:東畑賢治

「うまい・はやい・やすい」は誰にとっても有り難い存在です

 老舗民芸品店の店主から、「人気作家は仕事の手が速い」という話を聞かせてもらったことがあります。腕がいい人は丁寧だけど迅速な作業をすることが多く、短時間でたくさん作れる。その分だけ作品の値段を抑えることができ、質に比べて割安になりやすい。「そういう作り手は、売り手にとっても使い手にとっても有り難い存在」なのだそうです。
 この話は僕たちライターにも通じると感じました。なお、ここでの「はやさ」には、「早さ」と「速さ」の両方の意味があります。
 ちょっと古風なライターの中には「締め切りギリギリの編集者との攻防がないと原稿を書く気になれない」「締め切りを過ぎてからが本番だ」なんて言う猛者もいます。納期を守っていないのだからとても仕事が「早い」とは言えませんね。でも、彼らの「速さ」というか体力・集中力はすごくて、雑誌5ページ分ぐらいの原稿ならばひと晩で書き上げたりします。もちろん、仕上がりは文句なし。僕にはとても真似できません。

「品質は普通だけど納期厳守なので助かる。また仕事を出そう」と思ってもらいたい

 心配性な僕の場合は、たいていの原稿は締め切りの1週間以上前に終わっています。当然、取材も早めに終えなければなりません。「できる限りたくさんの取材をして、原稿はじっくり寝かして推敲を重ねている」と言いたいところですけど、そうでもありません。インタビューなどの取材が終わったらさっさと原稿を書き、少し時間をおいて1、2回読み返して直したら発注元に渡してしまいます。早く精神的に楽なりたいだけです。「締め切り前の攻防」なんてしたくありません。
 早めに原稿を渡せば、編集者やイラストレーターやデザイナーや印刷所など「後工程」の人たちが楽になりますよね。もちろん、僕も原稿の修正依頼に対応しやすくなり、場合によっては取材をし直すことも可能です。時間的に余裕がありますから。「大宮さんは品質は普通だけど納期厳守なので助かる。また仕事を出そう」なんて発注元に思ってもらいたい下心もあります。

画像1

時速1000字だけど1日4時間生産が適正。大切なのは長期的な作業効率の確保

 速さに関してもそこそこだと思います。テープ起こしや構成作りが大まかに終わっているとして、僕はだいたい時速1000字です(ネット記事の執筆が多いので文字数は原稿用紙換算ではありません)。たいていの記事は1本2000字~4000字程度なので、集中して執筆すれば2~4時間で1本生産できることになります。そこそこのスピードですよね。
 残念ながら僕には体力がないので、1日4時間も原稿を書くとヘトヘトになります。取材やらテープ起こしやら構成や企画作りという名の昼寝やらを含めると、労働時間は1日8~10時間です。会社員と変わらないですね。
 もっと頑張って長く働くこともできますが、必ずしっぺ返しが来ることもわかっています。例えば夜まで原稿書きをすると興奮して寝つきが悪くなり、翌日からの生活リズムが崩れ、しまいには風邪を引いたりします。また、最低でも1週間のうち半日ぐらいは「何もしないでダラダラする」時間が必要です。それを確保しないと疲れが溜まり、やはり体調を崩すもとになります。結果として、長期的な生産効率はダウンするのです。

締め切りが長い仕事と短い仕事を同時並行で進めるときのコツ

 このように自分のことがわかっていると、受注できる仕事量もだいたいわかります。先ほど述べたような1本2000字~4000字の取材記事ならば月30本です。締め切りは長いけれど原稿量も多い仕事(書籍や厚めのパンフレットの執筆など)を並行させる場合は、単発記事の仕事受注は抑えなければなりません。幸か不幸か、僕はそこまで注文が集中した経験はありませんけど。
 ちなみに、締め切りが長い仕事と短い仕事を同時並行で進めるときのコツは、「午前中は書き下ろし本の執筆」「午後は連載記事の取材および執筆」などと1日を大きく2つに分けて働くこと。僕は15年ほど前に先輩ライター(この人は売れっ子)からこの方法を教わり、窮地を切り抜けられた記憶があります。

画像2

仕事を早くこなす2つのメリット。量が質に転嫁し、チャンスを逃さない

 フリーライターになって8年間ぐらいは、自分のスピードや限界などはわかりませんでした。出版業界の人が多い街で一人暮らしをしていたこともあり、昼夜逆転で働いたり遊んだりしていたんです。生活のリズムなんて皆無。雑多な仕事を何でもたくさん受注して、締め切りだけは守って書きまくっていました。若かったのだと思います。
 だから品質はあまり良くなかったかもしれません。編集者の人から「急ぎ書きだね。粗いよ」と叱られたこともあります。でも、あの時期があったからこそ、原稿を書く際のスピード感覚が身につきました。多種多様な原稿を量産したことで「量が質に転嫁する」という効果も少しはあったはずです。
 仕事が「はやく」なると、もう1ついいことがあります。チャンスを逃しにくくなることです。いま、知り合いから何か面白そうな企画に誘われたとします。仕事が遅くて締め切りに追われていたら、その企画に乗ることはできません。でも、通常の仕事は締め切り前に終わらせる段取りがついていて、なおかつ自分の「はやさ」に自信があれば、「喜んでやります!」と即レスできるのです。
 はやさを大事にすると、仕事仲間からの信頼も得られて、時代の変化にも適応できる。僕はそう信じています。(おわり)

有料記事のご案内



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?