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ライター仕事で気を付けていること~「企画の三原則」を知っていますか?の巻~

撮影:東畑賢治

自分自身が興味と情熱がある内容だから、他人を巻き込むことができる

 非核三原則ならぬ「企画三原則」を先輩ライターから教えてもらったのは今から10年前ぐらいのことでした。原則とはいっても、おしゃべり好きな先輩がその場で思いついたものです。でも、先輩は「ルポエッセイ」の分野でベストセラーを出している実力者。僕はおしゃべりに付き合うような振りをしながら、その三原則を脳裏に刻んだのでした。
 原則1:自分がやりたい企画なのか。当たり前と言えば当たり前だけど、一番大事なポイントです。報われなくても取材や執筆のプロセスで満足できるぐらい興味や情熱がある内容でないと、出版社などの取引先を巻き込み読者を獲得することはできないからです。
 ライターには、例えばゲームとかファッションとか電車とか、特定の分野にマニアックな人が少なくありません。好きで好きでしょうがないのですね。そんな人には原則1は不要です。自然と遵守できているのですから。
 問題は、僕のような「非マニア体質」の人。興味分野を聞かれると「あえて言えば人です」なんてぼんやりしたことを言ってしまいます。先輩には「それじゃ、広すぎるよ」と呆れられました。この場合、原則1を意識して掘り下げることが必要です。
 僕は「他人との本音の関係。できれば温かく可愛げがあるもの」に興味があるというか好きなのです。赤の他人との関係性における本音が最も露骨に表れるのが結婚ですよね。後付けかもしれませんが、僕が恋愛や結婚に関する企画を立てることが多いのは、原則1を無意識のうちに守っているからだと思います。

「恋バナが好きなのに既婚なので当事者になりにくい」という強いフラストレーションから生まれた企画。「お見合いおじさん」という立場で、婚活の現場にプレーヤーとして参加し、レポートしています。楽しい!

世の中の動きや気配を読み取ってサービスとして提供する。それが企画です

 原則2:その企画には需要があるのか。これはとっても難しいですよね。ライターだけでなく、多くの社会人が悩んでいるポイントだと思います。メディアやSNSを見ていても、「それが本当に一定数の人から求められているのか。今後もその需要は続くのか」なんてわからないからです。
 洞察力や直観力がある人は、普段の暮らしの中からぼんやりとした需要を察知して、言葉にできるのだと思います。例えば、Aという商品が売れているというニュースを見て、身近な人がその商品を使っている様子を目撃したとします。そこで同じような商品を作ろうと思うのは「企画」ではなく「模倣」「追随」ですよね。Aが売れて使われている状況を目の当たりにして、そこから目に見えない世の中の動きや気配を読み取り、全く異なるBという商品を考える。これが企画です。はっきり言って僕はとても苦手です……。
 苦手でも逃げるわけにはいかないので、いろんな人と協力をしながら、僕なりに実践しなければなりません。工夫としては、「需要があるのかは不明だけど、当事者になって需要を作り出す努力をする」や「誰もやっていなさそうなことは迅速に実行して、需要があるかどうかを観察する」などがあります。

「晩婚化」が気になっていたという編集者の方から声をかけてもらって生まれた企画。おかげさまで需要があり、長く続いています。

「このテーマをこのような切り口で書くならば自分しか有資格者はいない」と言えるか

 原則3:自分にはその企画をやる資格があるのか。僕は歴史や国際政治に関する本を読むのが好きです。でも、「黒人差別から見えてくるアメリカの現代史と社会構造」みたいなテーマで文章を書いて発表しようとは思いません。能力がないだけでなく、資格がないからです。
 アメリカの専門家ではなくても、例えば思想家の内田樹氏による『街場のアメリカ論』(文春文庫)みたいなアプローチはあると思います。もし僕がやるとしたら、アメリカ在住の日本人の恋愛や結婚を取材して、日本における婚活との比較から見えてくるアメリカ社会を描く、ぐらいでしょうか。いずれにしても、「このテーマをこのような切り口で書くならば自分しかいない!」と言えるほどの自負と説得力がなければ、見知らぬ人に文章を読んでもらうのは難しいのです。
 この原則は制約でありつつも、企画を生み出す源泉にもなり得ます。自分の過去と現在を客観的に見つめることで、唯一無二の「資格」が必ず見つかるからです。例えば、愛知県で保護犬を常に5匹以上、10年間も飼い続けている人ならば、「東海地方における保護犬事情」について何かを発信する資格と説得力を持っていると思います。
 以上、僕が先輩から教わり、今でも大事にしている企画三原則です。最後にコツを言えば、この原則を意識しながらいろんな人と対話をすることが大事だと思います。対話を通して新しい情報やヒントを得られるだけでなく、自分の意欲やアイディアを言語化することで企画という形になっていくからです。(おわり)

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