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死にたがりの君と殺したがりの僕 1

二〇二四年四月

「これから先の未来にな。男と女という性別とは別に生きたがりと死にたがりという人間が出てくるからな。」

「それはみんな、わけられるの?」

「皆かもしれんな。」

小さな男の子の問いに対して、にこやかに答える老人。はるか先の未来の話を五歳の男の子に話している。

「お爺ちゃん、またその話?飽きないね。」

キッチンの方から話すお母さん。

「瑛太に話したのは初めてだ。飽きないよな。瑛太。」

「おじいちゃん。もっと聞かせて!」

無邪気に祖父の言ったことを純粋に聞き入れ、続きが気になっている男の子。

「そうか。じゃあ、瑛太。さっきの続きな。」


二五二四年十一月

紅葉山高校の名物、紅葉が咲き誇っている。そんな綺麗な世界。二十年前、国際法により、男女という区分以外に生きたがりと死にたがりというのが新たに作り出された。稀に殺したがりが居るというのも研究で分かったそうだ。俺は稀にいる殺したがり。この区分は人に言う必要などない。だから、クラスの誰が生きたがりで、誰が死にたがりなのかなんて知らない。

「晴陽。お昼、食べよ。屋上この時期だから開放してるかも。」

「屋上、行こうか。」

彼女の橋本美衣香と紅葉の時期だけ開放している屋上でお昼を食べ始めた。

「みて、晴陽。また、死にたがりの自殺だって。」

「本当に自殺かな。」

美衣香のスマホ画面のニュースを見ながら話す。いじめにより、高校生が一人自殺をしたというニュース。

「晴陽、どういうこと?」

「そのままだよ。死にたがりは自分自身で命を絶つことはしない。これ殺したがりかもしれないってこと。」

「殺したがりは法律で守られているから。」

殺したがりは法律で守られている。殺したがりが人を殺しても、それは生きるための行為とみなされ、刑務所には数ヶ月で釈放される。

「美衣香はさ、殺したがりを怖いとか思わ+ないの?」

下手すぎる探り。ただ、この質問である程度はわかる。怖いと言えば、生きたがり。怖くないと言えば死にたがり。美衣香はどっちなのか。

「どっちでもないかな。」

「どっちでもない。」

「だって、殺したがりは日本に十人いるか居ないかくらいの数なんでしょ。そんな確率ならさ、会うことなくない?あと、殺したがりが殺すのは、死にたがり…なんでしょ?」

「そうだね。」

分からなかった。美衣香が生きたがりなのか、死にたがりなのか。曖昧な答えだった。

「…生きたがりと死にたがりは世界が勝手に作ったもの。私たちが必ず知る必要なんてないんじゃないかな。」

「世界が決めたことではあるけど、人生百年時代と言われている中、死にたがりは半分の五十年と生きた人はいない。」

「…そうだね。」

悲しげな表情の美衣香。毎回、この話は暗くなる。生きたがりか死にたがりか。はたまた、殺したがりなのか、探り探り。どこの付き合っているものは探り探りだと思う。自分が死にたがり、殺したがりなら、なおさら、生きたがりは普通に生活できているが、死にたがりは自分が死ぬことでやっと生きていたんだと感じることができる変わった人種。だから、必死。死と隣り合わせな死にたがりと出会うと自分が苦しむ羽目になるから。生きたがりよりも早くに死ぬことになる死にたがり。殺したがりは別の目的で探している。殺したがりは生きたがりを殺すと重い刑罰を受けることになる。対して死にたがりを殺すと少しばかり軽い刑罰になる。

「晴陽!」

「美衣香。どうした?」

「どうしたじゃないよ。チャイムなるよ。教室戻ろ。」

「もうそんな時間か。戻ろうか。」

「うん。」

このことを考えると、時間を忘れる。自分が生きてる感じがしないから。早く死にたがりを見つけなくては。

もし、美衣香が死にたがりでも俺は美衣香を殺せない。付き合って半年が経ち、死にたがりを探すための付き合いがいつしか本気になってしまった。

「晴陽、聞いてる?」

「あぁ、なんだっけ?」

「最近、ぼーっとしてること多いね。」

「成績やばいなとか、色々考えちゃって。」

「私のことは考えてないんだ。彼氏なのに。」

「ごめんって。美衣香。」

「じゃあ許すから、放課後は暇?」

「暇だよ。」

「どっか行きたい。付き合って半年だしさ。」

「そうだね。行こうか。」

俺たちは、放課後に出かける予定を立てて、午後の授業に行った。

「晴陽、海行こ」

「海?寒くない?」

「今年最後にさ。」

「分かった。行こうか。」

放課後となり、俺たちは美衣香の提案で海に行くことになった。こんな時期に海行くなんて、なんでなんだろうなと思いながら、電車で海に向かった。




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