詩/from Vashisht

from Vashisht

その子でもう三人目です
小指の外側にも指がある
赤いマニキュアもしている
指折り数えるカレンダー
つくるには十二本の指が必要だったはず
いいえ
翼への痕跡?
極東アジアの島国では多指症と名づけて
切り落とすそうです
十二進法の指をも切り捨てる
握り締める手を選んだ大勢の分別には
もはや翼に進化し得る足が
ありません

二階の部屋を出るとすぐ牛舎の屋根の上に出ます
右手に迫る山の中腹には小さく滝が見えます
一度たりとも同じ道、同じ形をとろうとはせずに
ある範囲の中を流れ落ちる水たち
それでもいつかは渓谷をひらく

夜になり同じ国の言葉を話す人が訪れました
草を巻きくゆらせながらこう聞くのです

君はなぜ旅に出たの

まるで、なぜ生きているのかと聞かれたような気がして
そのあとで私はさらに北へ向かうバスの切符を買った
会いたい人はいない
ただ方向だけに支えられて
そこへ行くのです

1994年9月

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