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あの頃。

大学では、勉強しようと思っていた。

高校3年生まで、他にやりたいことがある!とか言って進路を2転3転したりずっと言い訳をして、勉強することを先延ばしにして高校生活を送ってきた。でも一番、自分が自分をごまかしていたことを知っていた。

センター試験はボロボロ。受けた大学は全部落ちた。親に土下座して、浪人させて欲しいと頼んだ。その一年は全て断ち切って、目から血が出るくらい勉強した。

ギリギリだったが、希望していた大学に滑り込んだ。3月10日は、号泣した。やっと、みんなと並べたと思った。

大学では、勉強する。そう心に決めて、門をくぐったはずだった。

一年、他学部の授業もとった。受けたい学部が自分の大学になかったから、他の大学の先生にお願いして、ゼミに参加させてもらった。本もたくさん読んだ。サークルや部活には入ってなかったから、存分に自分のやりたい勉強もできていた。方や、バイトもそんなにしてなかったから、お金はなくて洋服はTシャツにカーディガン、ジーンズにスニーカーだった。

そんな感じで、友人も大して多くなかった。数人ではあるが、気が合うグループがあってその友達たちは大事にしたいと思っていた。特に仲良くしていたのは、いつも可愛い格好をして、綺麗に髪を巻いて、キラキラ光っている女の子だった。可愛いくて、話は面白くなんでも本音で話してくれた。

ある日、そのコミュニティで飲み会があった。

話は誰と誰が付き合っている、どの授業がラクだとかそんな大学生の話だった。終わり際、ふと、話の矛先が私に向いた。

「ホント、ファッションだけはどうにかした方がいいよ」


・・・え?


たぶん、良心で言ってくれたんだと思う。なかなか本人を目の前にして、そんなこと言えないし。

「大学にも入ってさー、運動靴とか、ナイから。」


「でも、スニーカー履いてる子って他にもいない?」


「いや、そういう運動靴じゃないでしょ(笑)。スニーカーってもっとおしゃれなのじゃん」

自分では、全くそんな気もしていないことだったから、晴天の霹靂だった。

「浮かなければいいと思って...」すがるように、いつも仲良くしている女の子の方を見た。

「いやいや、全然浮いてるし」

その子は、爆笑していた。

言葉につまり、自分の格好を見下ろした。

黒くて苦しくてかたーい塊が、胸の奥でうごめいていた。


翌日から、バイトを片っ端から探した。

どんどん応募して、シフトを入れた。

いつかは留学したいと思っていた貯金を崩した。

最初はどんなところで、洋服を買ったらいいかわからない。サイズ感もわからなかったから、たくさん買ってたくさん失敗した。毎日、全身鏡の前に立つ時間が長くなった。

バイト代は全て、洋服につぎ込んだ。

雑誌を買って、メイクの研究をした。全部揃えるとこんな高いんだ...と気は滅入ったが、シューカツで必要な時が来るし、と自分に言い聞かせ、奮発し続けた。


「垢抜けたねー!」

そう言われるたびに、心が弾んだ。


でも。

頭の中は、どんどん軽くなっていった。

紡ぎだす言葉は、薄っぺらくなっていった。

本屋には行かなくなった。出かける先はもっぱら、マルイやルミネだった。

今から考えれば、何て勿体ないことをしていたんだろうと思う。私は、勉強して、本を読んで、考えて、文章を書くことが大好きだったのに。

この空虚感は、働いてからもずっとのこっていた。


今年の3月に、仕事を辞めた。

いまは、図書館に通い、本を読む。そして考えたことをノートに綴っている。

父と母が身を粉にして、与えてくれた学生という時間。あの失った時間を、取り戻すかのように。

着ているのは、ユニクロの1990円のボーダーTシャツ。

とても身軽で、私は自由だ。




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