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母の精神が崩壊② 張り詰めた糸が切れた日

日ごと症状が悪化していく母。
小さな子供のように、目が離せなくなってきた。

服の着脱も、わからなくなり、お風呂も見守りが必要になった。綺麗好きだった母が、お風呂に入りたくない、とも言い出した。何度もお風呂に入ろうと誘い、やっと入ってくれる状態。

母は、自分で体を洗う順番を決めていて、その順番がわからなくなったと、泣きながらシャワーを浴びていた。
そして、お風呂に付き添って入っている私に、何度も何度も『迷惑をかけて、ごめんなさい』と、謝っていた。

お風呂から上がり、脱衣場を出ると、『男と女が、私が風呂に入ったと、話ししている』と、怯え、『家族には、手を出さないで!』と、叫んでいる。落ち着かそうと、『誰もいないよ?』と言っても、では、この声はどこから聞こえているのか?ハッキリと聞こえているのに、私が嘘をついているとでも言うのか!と、怒りに満ちた目で、私を睨み付けていた。

一通り、母の風呂や後片付けを済ませ、実家から帰ろうとすると、玄関先までいつも見送ってくれた母がある日、私の名を呼び、手を握り、『治りたい…』と涙を流した。

駐車場へと続く夜道は、オレンジ色の街灯がぼんやりと道路を照らし、周りの家々から、笑い声や、子供たちがキャーキャーと言いながら、家のなかを駆け回る幸せそうな声が、温かい光と共に漏れていた。

真っ暗な駐車場にたどり着き、車のドアを開け、運転席に座ると、張り詰めていた糸がプツンと切れ、涙が止まらなくなった。































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