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東京都同情塔を読んで

 第170回芥川龍之介賞に選ばれた「東京都同情塔 九段理江」を読んだので感想を書いていこうと思います。

 私は今まで芥川賞受賞の作品を読んだことがありませんでした。
新聞で受賞作と作者の写真や記事を見るたびに、「こういう人が書いているのか、こんなタイトルなのか」という感想しか抱きませんでした。
数あるニュースの中の一つで、次の日には忘れてしまうもの。

 しかし、図書館を利用し始めてから興味を持ったので、候補作品2つ、そして今回の受賞作と読みました。
読者家の方々から比べれば、本当に薄っぺらく風が吹けば空に高く舞い上がってしまうような感想文だと思います。
それでも興味を持ってくださり、読んで頂けるのなら嬉しい限りです。

公式のあらすじは以下の通りです。

ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。

新潮社

全体を読んでの感想


 まず、話として読みやすいので1日で読み終えることができました。
私の中では、すらすらと読める本かどうかというのが非常に重要です。
人それぞれ、自分に合っている本は違います。
だから自分の感覚に近いものが読みやすい。
生きてきた中で得た知識や経験を通して、こういうものはこうだという事実が作られていると思います。それに基づいて、私達は納得や否定という判定をしています。その結果、この作品は自分が好きだ、いや理解できない、何とも言えないがこれが文学というものだ等と答えていくはずです。

 私は、東京都同情塔に対して芥川賞に選ばれた作品だから、今の時代の作品を自分の頭で理解してみたい、さらに言えば吸収して知識にしたい、もっと乱暴な言い方をすれば、自分の作品の養分としていただきたいと思いました。だから、私は最後まで読み終えたのだと思います。

 この作品を簡単にまとめると、建築家の葛藤と恋人のようなふわふわした関係者との対話と結果がもたらしたものを表現しています。
その二人の会話やお互いの精神世界が、ある意味狂っている部分があり、リズム感のある文章だったので良かったです。
この点は賛否両論あると思います。

 また、報道では生成AIを利用した小説と取り上げていることも知っていました。私自身もAIについて興味があり、どの様な使い方をしたのかと気になっていました。そして読み進めると、「ああなるほど!」と理解できました。作者自身もAIを利用したと大々的に言われるが一部に使用したと言っていたのも合点がいきました。

作者が言いたかったことは?


 誰もが本を読むと、「作者は何を言いたかったのか?」と気になるはずです。しかし、この何を言いたかったのかという事は、作者自身が細かくインタビュー記事や何らかの場所やメディアで語らない限り、正確なものはわかりません。また、読者それぞれの感想があり、共通するものもあれば、全く違うものもあるはずです。

 私は、作者は人間相互理解について問題定義をしたかったのではないかと思います。東京都同情塔は刑務所です。そんな塔が都心のど真ん中に作られてしまう。当然反対する人達もいます。しかし、犯罪者自身もこの世に生を受けた存在である。平等という言葉があっても、世界に平等は存在しないので悪の道に走ってしまう人もいる。そんな人達を犯罪者として真っ暗な刑務所に入れていいのか?同じ人間なので、同情塔に入居させタワマンにいる金持ちと変わらぬ生活をさせてみよう。そんな実験を行ったのではないかと思います。

 しかし、塔を作った牧名は建築の仕事から離れてしまう。最高の作品を作り上げたが失ったものもある。バベルの塔のようなものを作れば、その分費やすエネルギーも相当なものです。だからこそ消耗した。
信念があっても世間からの評価、自分自身の体力の衰え等も影響する。
建築物はただのタテモノではなく、建築家自身の存在を表していると言いたかったのではないかと思います。

#読書感想文 #東京都同情塔 #芥川賞

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