お爺さん。

ねえ、お爺さん。
随分長く一緒に暮らしたわね。

お見合い結婚だったわね。
凛々しい御写真を見た時は、本当はね。
何とも思ってなかったのよ。
だってね、あの頃丁度
国鉄で働いて、憧れて恋をしていた人が
結婚して仕舞った頃だったんだもの。

まさか、四人も子供を産む事になるなんて。
まさか、三人も孫を育てるなんて。ふふふ
思ってもみなかったのよ。 

50を越えた頃から、どんどん…
どんどん身体を悪くした私。

皆が口を揃えて
「ばあさんが先に死ぬ」
なんて云っていたわね。

ふふふ。

呆気なかったわね…
私は細々生きていて…
お爺さんは二度倒れてから早かった。

意識の無い期間があって…
目覚めても何も覚えてなかったわね…


お通夜、お葬式…
涙を流さず済ませたの。

でもね…
いざ火葬となった時
涙が溢れたわ。

あの時云った言葉を
もう一度云うわね。

お爺さん。

お願いよ…
私が逝く迄、入口に居て頂戴よ。

お願いよ…
これ此れ以上 、私を置いて 
先へ行かないで頂戴よ…




私の祖母の話です。

昔、祖父が入院していた頃に、よく昔話を聞いていました。

「ふふふ」の前後は大分端折りましたけどね。

祖母は祖父を愛していた、と云う事は、よく伝わりました。

火葬前に、祖父の頬を撫で云った言葉は、10年以上経った今でも忘れられません。

本来、祖母はド関西弁ですけど、まあ、其処は、ねぇ。
面倒くさかったので、標準語で(笑)



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