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キャリーについて考えようとしたけれど

 働いているときは週末を常に切望しているのに、いざ休みになると特にやることがないので、久しぶりにSex and the Cityをシーズン1から観ることにした。去年から配信された久々の新章を観るために入ったU-NEXTの無料期間はとっくに終わったけれど、退会せずに毎月お金を払い続けている。新章の配信にあたってシーズン1から見直すことはなかった。でも今になって最初から観る気になった。

 初めてSex and the Cityを観たのは3年くらい前だ。姉に薦められてのことだった。シーズン1が始まったのは1998年なので、だいぶ遅い初体験だ。すべてのシーズンと映画2本をぶっつづけでひたすら観た。すっかりはまったのだ。私は4人の女性たちをとても好きになった。

 ただずっと解せないことがあった。2本目の映画で元恋人や夫がキャリーのことを他の女性とは違うみたいなことを褒め言葉として言うのだけれども、私にはキャリーが他の女と何がどう違うのかよく分からなかった。私からするとキャリーは恋愛に翻弄されがちで割と自己中心的でとてもおしゃれな女性で、それ以上でも以下でもなかった。でもそれは私の恋愛とか人生の経験値が低すぎるせいなのかもしれないとちょっと落ち込んで、時間を空けて改めて最初から観ようと決めていた。

 そして3年経ち、そのときが来たようだ。この3年、私は恋愛をしていないけれども、それでも今なら分かることがあるかもしれないという淡い期待がある。
 土曜日の午前中から白ワインと買ってきたぬか漬けと柿の種を用意してSex and the Cityを観るという私の週末が始まった。

 タイトルにセックスが付いているだけあって、キャリーを含めた4人の女性たちはよくセックスをする。この人たちに比べたら私の経験数なんて無みたいなものだ。3年前から数も増えていないし。

 セックスのシーンを観ていると、みんな洋服のまま、つまり外で着ていた服のままベッドになだれ込むことが多い。私は自分のベッドに入るとき、それはつまり睡眠をとるためとかひとりでだらだらするときなのだけれど、絶対に外で着た服で入らない。理由はシンプルで、ほこりとか他人の何かがついているかもしれない服が汚いと思うからだ。ベッドは私にとって最も安全な場所なので、きれいにしていたいのだ。
 でもキャリーたちはちがう。何なら靴も履いたままベッドに突っ込んでいく。明日男が帰ったらシーツを洗うのかしら、洗った方がいいなあなどと思いながら私は白ワインをあおる。そして彼女たちはきっと都度シーツを洗濯しないと私はどこかで確信している。もちろんベッドが汚れるとかそんなこと考えない欲望に突き動かされてするセックスがいいものだということも分かる。だけど今の私にとってはちょっとやめてくださいという感じだ。

 ベッドの次に気になってしまったのは化粧だ。彼女たちは化粧をしたまま朝を迎えることが多々ある。化粧を落とさずに寝ることによる肌へのダメージはかなりのものだと聞いたことがある。だから私はどんなに酔っぱらって帰ってきたとしても、たとえ嘔吐するほどの状態だとしても、絶対に化粧を落としてから寝るようにしている。私が自分に課している数少ないルールのひとつだ。
 でもあれか。キャリーたちはセックスをしているので、それによる肌へのプラス効果で化粧を落とさずに寝ることによるマイナスは相殺されるのかもしれない。だから彼女たちの肌ダメージはゼロなのだ、きっと。私が最後にセックスをして化粧をしたまま朝を迎えたのはいつかを思い出そうとしたが、白ワインのせいか、遠すぎる記憶のせいか、ちっとも思い出せない。
 
 外気をまとった服でベッドが汚れても、化粧による肌へのダメージが出ようとも、そんなことどうでもいい、というかそんなこと頭に浮かぶ間もなく誰かとセックスしたいという衝動が今後私に訪れるのか。それは面倒な気もするし、ぜひともという気もする。

 それにしても男性たちは女性を抱きしめるとたびたび顔を髪に埋める。それも割と長く。私は常に自分の頭皮のにおいを気にしている。ふとしたときにむわっとにおうことが多々あるのだ。生活習慣の影響もあるのだろう。お酒は毎日飲むし、摂取する食物のバランスも悪い。だからそんな髪というか頭に顔を埋められる場面が自分に訪れることを想像するとぞっとする。「くさっ」となって嫌われてしまうに違いない。だから嗅がないでほしい。

 でも最近、シャンプー前の予洗いが重要だという情報を入手したので入念にやるようにしたところ、においはだいぶ改善した気がしている。すごいなお湯と感嘆した。とはいえまだ自信はないので、キャリーたちを見守りながら、私はスマホでAmazonのアプリを開き、頭皮ケアの製品を探し始める。いつものごとく保湿ローションとかスカルプシャンプーとかクレンジングとか、いろいろあって何を買えばいいのか分からなくなるが、意を決して評価のいい頭皮クレンジングをカートに入れてすぐに購入した。家に届くのは二日後とのことだ。

 それからひとつ学んだことがある。アメリカ人は愛してるという言葉を頻繁に使うものだと思っていたのだけれど、そうでもなさそうだということだ。キャリーたちは愛してると言われただの、言えないだのと各シーズンでやんややんやしているのだ。どうやらアメリカ人にとっても重みのある言葉らしい。「愛してると言われたことはありますか?」と問われたとしたら、私はどんなに白ワインを飲んでいても明確にいいえと答えらえる。アメリカ人でさえ割とハードルが高そうなその言葉を私が今後の人生で受けとる確率は0に等しいだろう。

 愛してると言ってくれる日本人男性っているのだろうかと思いを巡らせてすぐに堂本剛が思い浮かぶ。小学校3年生から好きな彼はきっと恋人に愛してるととても自然に言うだろう。なぜそう思うかと言えば、長いファン生活の中で見てきた彼から感じることであって、だから何だって話だけれども、愛してると言える日本人男性に思い当って私は少しほっとする。そして彼のファンでよかったとしみじみと実感する。

 こんなふうに本筋ではないところが気になってしまいがちで、どんなにシーズンが進んでも、キャリーについての私の考察はなかなか進まない。他の女と何が違ってどこらへんがいい女なのかちっとも分からない。どちらかというと、「何やってんだよキャリー」とか「ばかだなあキャリー」とか「ふざけてるなキャリー」などと思う場面が多い。あと3年経っても分かる気がしない。でも私はキャリーが好きだ。まあまあ友達思いで、おしゃれできれいな靴をたくさん持っていて、どんなときもハイヒールをがんがん履いているところが私は好きだ。

 それにしてもマノロブラニク。私も欲しい。履いて出かける場所は思いつかないけれど。



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