見出し画像

「障害者雇用の「代行」が急増」という報道に対しての私の考え

「障害者雇用の代行が急増」ということで、以下が報道されました。

この報道に対して、私の周りからもさまざまな意見もあり、現時点での自分自身の考えを言語化して残したいと思い、noteに記します。

私はまだまだ勉強中の身分です。なので、以下の内容は浅はかで知識不足なこともあるかと思います。皆さんと対話をし様々な考えや視点を吸収していきながら、じっくりと障害者雇用について勉強をしていきたいと考えています。

①「障害者には農業を」という視点から。


某S社が公開したプレスリリースには「相対的に就職が難しいと言われる知的障がい者や精神障がい者の皆様の職業として、農業は非常に親和性が高く」との文章があります。この文脈を私は「『障害のない人と比べると』相対的に就職が難しく…」と捉えました。そういった方々が仮にいたとして、農園という職業選択が親和性が高いと決めつけてしまうことは疑問に思っています。障害の種別や、障害の有無に限らず、一人一人異なる興味関心を持っていますし、得意・不得意な側面も画一的に語られはしません。障害者にも自由に職業を選択することができる権利があります。その権利を、狭めるような状況に陥らせていることは、個人の能力やスキルの問題ではなく「社会」に問題があります。(社会モデル)
障害者の雇用を行う上で「合理的配慮」の提供が義務付けられています。合理的配慮とは、障害者「個々のニーズ」に応じた「社会的な障壁の除去」のことを言います。そのために、事業所側(雇用側)の事情を汲み取る必要はあり、そのために障害者・事業所双方で「建設的な対話」を行うことが必要です。そういった障害者が働く上での合理的配慮のプロセスを「農園での仕事」という枠に当てはめており、企業側が行う合理的配慮のプロセスを放棄しているのではないか、そのような印象を持ってしまいます。
さらに、社会側が障害者一人一人に寄り添いながら働く選択肢を増やしていけているのかという視点で考えると、上記のような、雇用を生み出す側の先入観によって雇用が生み出されている可能性があります。そうすると、障害者権利条約の合言葉である「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」ということにも関係する話にもなりそうです。
障害者の個別性に気を配らず、特定の人だけによる考えで、就労への選択肢を固定化させてしまうと、社会モデルの考え方が通用しなくなり、社会の問題への矮小化につながりかねないとの懸念もあります。
(もちろん、農園では支援員も配置されており、その中で職業的・情緒的なサポートを行なっているとは思われます。実際に農園に見学をしたことがありませんが、「農園に勤務する 3,000 名を 超える障がい者の皆様の定着率は 92%を超えています。」とプレスリリースに記載されており、障害者が働きやすい環境整備に取り組んでいると予想しています。)
(最近では、「農福連携」という言葉あるように、雇用促進の一貫として農業が注目されています。農業という仕事に否定的ではなく、「障害者には農業が良いよね」という価値観・先入観が生まれてしまうことは果たして良いことなのかという、私自身へ問題提起をしております。)

②「雇用」の現場で起きている障害者の分離


企業内で雇用せず、他社が運営する農園で就労をさせることで、「自社で障害者を雇用しているとする(自社の雇用率として算定する)」という仕組みについて、同じ企業の在籍であるにもかかわらず、働く場所が異なることは「分離をさせているのでは」や、「インテグレーションに反する」という意見もあると思われます。
しかし、日本には特例子会社制度があります。特例子会社では、子会社を設立しそこで障害者の方が働きやすいような環境調整を行い、雇用をしていく。そうすることで親会社の雇用率として算定ができるようになっています。また、企業内に障害者の方のための部署を設立し、雇用後はそこの部署で就労をしてもらう企業もあります。さらに、就労継続支援事業所の中には企業側から業務を委託し、その業務を障害者が行うことで賃金を得るというシステムも存在しています。
これらは「仕組み」は異なったとしても、どこかで共通する部分があるように感じています。「分離」をすることにより障害者の雇用が促進されていく仕組みが制度上存在しているのです。
(特例子会社というある種のサポート体制が整った環境で働くことができることで就労のし易さにつながるとは言われており、メリットもたくさんあります。)
(2022年8月に「障害者権利条約」の国連の権利委員会による初めての審査がおこなれました。そこでの議論の1つに「分離教育は分断した社会を生み出す」ということで、インクルーシブ教育が求められました。教育学には詳しくないのですが、もともと障害者を「分離する」というシステムが子供の頃から埋め込まれているのだと感じました。)

③社会の問題として捉えること


今回の報道については、障害者雇用率は達成しているものの、法定雇用率達成のための手段として障害者雇用を位置づけしており、かつ障害者雇用を他社に委ね双方に金銭的な契約が発生することに対して、「法定雇用率制度を良いように利用している」「この制度を利用する企業は、法定雇用率を達成することばかりを考えており、障害者雇用に対しての捉え方が甘いのではないか」という批判も考えられます。
障害学を専門とする星加先生は、障害の社会モデルを考える際に、「このような『社会的な障壁』がそもそもなぜあるのかに立ち返ること」の重要性について述べています。
私は今回の出来事について「企業が他社に障害者雇用を委ねるということは、何かしら企業に『障害者が働きづらいと思われる社会的障壁(ソフト面でもハード面でも)』がある」と考え、その結果「障がい者の雇用を支援する農園サービス」というビジネスモデルが生まれていると考えています。だとしたら、単なる批判だけではなく「障がい者の雇用を支援する農園サービスはなぜ生まれ、この取り組みに賛同する企業がなぜいるのか」ということまで射程を伸ばして考えていかなければならないと思っています。
さらに、そこで雇用されている障害者の方々はこの職種に対してどのように考えているのか(自己決定のプロセスはどうか)、障害者の就労を支援する支援職は社会に何を語り、どのように障害者の雇用について取り組んできたのか、さまざまな軸で「社会」の関心ごととして語られる必要があると思っています。そして、我々障害者就労支援に携わる者はそのようなことを考え、行動していく責任があるのではないでしょうか。

まとめ・私見


障害者雇用は社会貢献なのでしょうか。SDGsや企業のCSRで障害者雇用が語られることや、障害者雇用に精力的に取り組む企業への表彰などを見るたびに、そのような考えが浮かびます。働くことは人が生きていく上での選択肢の一つであって、障害があるなしにかかわらず、平等で保障される必要があるはずなのに、まだまだ不平等な側面があると感じました。

最後に、もしもこの問題に対してな感心がある方は、自身の障害者雇用に対する認識や価値観を振り返る機会になると良いと思っています。私もnoteをまとめていくうちに、さまざまな感情が湧いてきました。
なので、このような取り組みが報道されることで、それぞれがどのように考え、どういった気持ちを持ったのか、障害者雇用に関わる支援員や職員同士で話し合ってみるのはどうでしょうか。もちろんそこに、様々な意見があると思います。そのさまざまな意見こそが「障害者雇用の現在の地点」だと思うのです。

参考資料・文献

認定NPO法人 DPI日本会議ホームページ
https://www.dpi-japan.org/activity/crpd/

NHK ハートネットホームページ
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/723/#p-articleDetail__section--03
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/727/

外務省ホームページ 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

川島 聡,飯野 由里子, 西倉 実季, 星加 良司 「合理的配慮 -- 対話を開く,対話が拓く」 有斐閣 2016

栗田 季佳,星加 良司,岡原 正幸「対立を乗り越える心の実践ー障害者差別にどのように向き合うか?」 一般社団法人大学出版部協会 2017

星加 良司 「障害とは何かーディスアビリティの社会理論に向けて」
株式会社 生活書院 2007

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?