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ひと駅前は思い出の道

 



待ち合わせの時間まで一駅は歩けそう。
早く到着しても手持ち無沙汰な上この寒空、せっかくなら歩いてみようと電車を降りる。
幸い、ここは母校も近い所謂、地元なため思い出を振り返りつつ散歩も楽しめそう。
駅一つ分といっても遠回りできるほどの余裕はなさそうなので、確認しておきたい思い出の場所を三つにまとめておこう。
まずは学校、そしてコロッケ屋さん、あとはキョウリュウ公園に寄るかブタブタ公園か……これはそのうち決まるでしょう。

だいたい絞れたら予定に合うよう早歩き気味の散歩が始まった。
この日、振り返る思い出は小学生の時のこと。
中学に上がってすぐに地元を離れ、養護施設で暮らし始めたので、ひと駅で約十年分のページをめくることになる。けれども、中・高の記憶の方がずっと薄く、つたない。走馬灯でもクラスメイトの一割にも会えず終わるのではないかというレベル。中高の黒歴史も粒ぞろいではあるが、小学時代は闇、暗黒歴史。ここで塗り潰したせいか、制服を着るようになった時既に白部分は残ってなかった…黒が深まっていくばかりの封印されし青春時代。せめてあの時、漫画クラブではなくて料理・手芸クラブに入っていれば何かが...とか意味無い思考、ついついネガティブ『ついネガ』に掛かったところで

懐かしのコロッケ屋に到着


当時、ご老体の店主の後を継ぐものがおらず存続が危ぶまれていたため気掛かりだったが元気にやっていて一安心でござる。ここは正式には精肉店になるのだが生肉を買いに訪れたことはなく、乳歯がグラグラしてきた頃に食べるとコロッと抜け落ちるで有名な『コロコロポテト』がお目当てだった。
祖母(お母さんと呼んでいる)と電車で出かける際にも、一つ二つ惣菜を買ったりした思い出の味。コロッケ、ハムカツ、メンチ、コーンクリーム…サックサクでアッツアツで美味しかったなあ、あ・の・味、よし入るか。と、またもや生肉以外を求め入店する直前、商品棚に生肉しか見当たらないことに気づいてしまう。ショック!!!口は既にコロッケ!!もう夕暮れ時なので仕方なし。また来る理由になったじゃないかとセルフ口実もつくって少し戻りファミマのコロッケ『ファミコロ』を頬張る、うまい(嬉涙)

 そういえばこの辺りにコンビニなんてなかったな。
東京の下町、都心も近くなく穏やかな町でも十年経てば同級生の実家に表札はないし、スーパーも増えて町中華がステーキ屋になって古書店も新刊のある本屋になるか。そんな中でも愛され、応えるコロッケ屋さん、八百屋さん、花屋さん、ありがとう。そうこうしているうちに

母校が見えてきた

 夕陽射す時計塔の針は下校の時間を知らせ、子どもたちが駆け抜ける。
その後ろを追うようにして元気な風が吹いていく。変わらない校舎、帽子、ランドセル、懐かしさが込み上げて、わたしまで足早になってしまう。
不審に映らないよう注意して通り過ぎるその時、何か足りない気持ちになった。突然、寂しくなった。目の端に空虚な壁が写り込み心に現実を突きつける。六年間お世話になった駄菓子屋が跡形もなく、鉄筋マンションになっていたからだ。なんともいえない気持ちが胸を覆う。ファミコロでは拭なさそうな悲しみと驚きでいっぱいになった。
 すれ違うあの子たちは『ブタ麺』も『酢だこさん』も『ポテトフライ』も『ヤングドーナツ』も『きなこ棒』も『ホームランバー』も生活に存在してなくて『akbくじ』は引かないし『ヤッターめん』の当たり交換もしないってこと!?ドア前にあるベンチに座って友達と『ペペロンチーノ』食べ、まったりまったりする時間もないってこと!?

か。
思い返すと住まい近くのコンビニでも夕暮れ時に小学生グループを見かけますね。ポケカ買いにきてるんだよね。当時の遠足オヤツ代300円と同等の価値…リッチを羨ましがる成人済み女性、再度「ついネガ」に陥り加速していく。



気づくと公園のことはすっかり忘れたまま道のりの半分が過ぎていた。心向くままに歩き、

赤ん坊をあやすおばあさんとの遭遇


今やあまり見かけない光景。
町の至る所で「あいさつのまち」と掲げられているように下町の人情文化が残っていることは、なんだか嬉しいものだ。
町猫をスマホで激写しつつ目を向けると、赤さんの眉間はフキゲンを顕にし、渓谷の如く深い皺が刻まれているではないか。生まれたての肌にあるはずのない、年輪さえ感じる。
「お姉さん、学校から帰ってきたみたいだねえ」と、すれ違いざまで会話のタネになるが依然としてフキゲンであった。

そりゃあそうだ、明らかに学生ではないもの。
「適当なことは言ってくれるな」とピンクがかった赤茶の眉を歪ませ、主張していたのだ。
けれども人間の天敵は人間、人間の味方も人間。いざという時に役に立つ、思いやりと安心を育むやり取りであるのだよ。

おしまい

書き始めると長かったが、30分余りの散策であった。建物の裏に日が隠れはじめ、てんてんと灯る町の太陽に導かれながら無事に友人と落ち合うことができた。そして間もなく隣町の散歩にいそしむことになるわたしであった。


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