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板上に咲く|原田マハ|読書感想文

大好きな原田マハさんの小説を久しぶりに読んだ。

10行ほど読み進めて、はやくもうるっときた。
ストーリーはまだ進んでいないのに、なぜ?と思うかもしれない。

文章の美しさ、優しさに感動したのだ。

内容以前に、文章で読者を引き込ませる力がすごいと思う。

原田マハさんの文章に触れてみて、やっぱり好きだなぁと、改めて思った。
柔らかさとキレの良さを、両方持ち合わせているような、心地のいい文章。
一字一句、逃すことなくすべて噛み締めたいので、マハさんの作品はいつも読むのに時間がかかる。


「板上に咲く」は、青森県出身の版画家、棟方志功の成功までの道のりが描かれた物語。
棟方の妻、チヤの視点で進んでいく。

会話の言葉は、津軽なまりで書かれている。
戦前の青森にタイムスリップしたような感覚で読み進めていった。
音や匂いも想像の中で、しっかり楽しむことができる。

この絵にどれほど目を開かされたか。どれほど奮い立たされたか。どれほど力強く前に押し出されたか。
ゴッホの〈ひまわり〉。それは単なる花の絵ではなかった。それは遠く輝く星であり、暗い海を照らす灯台であり、進むべき道を指し示す道標だった。

「板上に咲く」 P 68

ゴッホに憧れ、ゴッホになりたいと創作に力を入れていく棟方志功。

貧しい生活に耐えながらも、夫を支えていくチヤの姿がとてもかっこいい。
お金より何より、精神的な支えがあることが一番大切だと思えた。

本当にやりたいこと、好きなことは、お金にならないから諦めるというのは、現代でもあるだろう。
お金にならなくても、やりたいことだけに集中してほしいと言えるチヤは、夫のことを心から信じている、まっすぐで強い女性だと思った。

日本人画家にとって黒と白は基本の色であり、れっきとした色彩だ。黒と白は棟方にとって赤と青であり、金と銀だった。どんな色にも変幻する、それこそが日本の色、黒と白なのだ。

「板上に咲く」 P123

黒と白が美しいと感じられる日本人に生まれてよかった。


版画はこの大きさでないといけないとか、画家は目が見えて当たり前だとか、誰かが決めたわけではない。

存在しない思い込みで自分を縛り付けるのはやめて、もっと自由に発想して、自由に枠組みから飛び出してもいいんだと、気付かされた。

顔を板すれすれにこすりつけ、這いつくばって、全身で板にぶつかっていく。見る者をおのれの世界に引きずり込む強烈な磁力の持ち主。

「板上に咲く」 P221

どんなに素晴らしい作品を作っても、どんなに美しい文章を書いたとしても、誰にも発見されなかったら原石のままだ。

「棟方志功」は柳宗悦によって発見された。
その出会いは、さまざまな「もしも」の連続で、奇跡や運命という言葉がしっくりくる。

では、奇跡はなぜ起きたのか。

運も実力のうちという言葉があるが、本当のところはわからない。

もし私が神様なら、諦めずに挑戦し続け、全身全霊で好きなことに打ち込んでいる人のところに奇跡を与えたくなる。


生きるということは、自分を表現すること。
棟方志功の生き方に、勇気をもらった。

昔の日本に、こんな素晴らしい画家がいたなんて、この本を読まなかったら一生知ることはなかったかもしれない。

本物の作品をいつか見てみたいと思った。


チヤは、棟方のことを世界一だと信じている。
棟方のために、毎晩、墨を磨る場面が印象的だった。

本のタイトル「板上に咲く」のほんとうの意味がわかった時、涙が止まらなかった。


あたたかい涙を流したい方に、おすすめします。




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