1-9.「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

 ヤンキーネットワーク! この部、大丈夫なのか?

 俺は全力でこの居心地の悪い空間から逃げ出すタイミングを見計らった。でも、そんな計画は、次々と部室へやって来る部員によって打ち消されてしまう。

「あれ? みんな、どうしたのです?」

「ジュンペー、いいところに来たね。今ちょうど新入部員を紹介していたんだよ」

 ユウシの声に促されて、部室の入り口を見た。

 身長は一五五センチあるかないか。童顔のせいか、ひどく幼く見える。背中に自分の身長と同じぐらい大型のデイパックをはちきれんばかりの詰まり具合でぶら下げていた。

「はじめまして。僕は志村順平。みんなにはジュンペーと呼ばれているのです。クラスは1―Dなのです」

 志村は、俺の前にやって来て、ちょこんと頭を下げた。デイパックが俺の前に突き出される。

「どうも。1―Cの難波です」

「こちらこそ。よろしくなのです!」

 勢いよくデイパックが跳ね上がった。不意に頭を上げないでください。とても危険です。

「みんなが言うには、僕の特技は足の速さと行動力らしいのです」また特技だ。

「あの……さっきから、みんなが言ってる特技って、なんのこと?」

 気になったので聞いてみた。ユウシが他のふたりを見て笑う。

「特技っていうのはね」

 ユウシが俺の素朴な質問に答えようとしたときだった。いきなり志村のデイパックの中から『RisingHope』のイントロが爆音で鳴り響いた。

「ど、どうなっているのです?」

 志村はあわててデイパックから自分のスマホを取り出して、あちこちをタップする。でも、あせって画面をタップすればするほど、音量は大きくなるばかりだった。

「トシ、くだらないイタズラなんかしてねえで早く入れ」

 ヒロムが軽くドスを効かせた声を飛ばした。

 すぐに爆音は止み、黒フレームの眼鏡をかけた、ひょろひょろした男子生徒が扉の奥から姿を見せる。左手に持っているのは、シールがベタベタと貼られたノートPCだ。

「自分は後藤俊寛というのだ。こいつらはトシと呼ぶがね。クラスは1―A。以後、よろしく頼むのだよ」

 後藤が俺に近寄ってきた。視線は自然と後藤を見上げるかたちになる。

「我々の言う特技とは、他のメンバーを上回っている個人の技術や知識、行動力などの能力のことなのだよ。たとえば、先ほど見せた自分のハッキングもそうだ。たいしたことではないのだがね」

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