4-28.「どんなに見ていても、ちくわはあげないのです」
「どんなに見ていても、ちくわはあげないのです」
いらないし。というか、口の中に残るコリコリのクラゲ味に、これ以上の味を加えたくないし。
やっぱり、おまえの味覚は信用ならない。俺は、隣で限定エビチリドロップスをなめるユウシを見た。ユウシはドロップを口の中で転がしながら、視線を宙に漂わせ、なにかを考え込んでいる。
「ユウシ、なにを考えてるんだ?」
「……ん。いや、僕たちのチームのランクって、どうなったのかなと思ってね」
「どうなったんだろうな」あの日以来、俺はアルミを立ち上げてもいなかった。
「自分たちが、アルミをやらなくなってから二、三日は、大きな動きはなかったのだよ」
トシがからあげ棒を片手にぷらぷらとやってくる。
「でも、すぐにもの凄い勢いでランクを上げるチームが出てきて、そちらに視聴者が移動してしまったのだ。そこからは一気に急降下。自分が最後に見たときは、二一〇位ぐらいまで下がっていたのだよ」
「なるほどね。結局は視聴者がどれだけ見ているか次第って感じだね」
ユウシが、ちらりと横目で俺を見てつぶやいた。
だから、ミッションはどんどんエスカレートするんだろうか。俺の目の端に、雑誌コーナーに並べられた新聞や雑誌のあおり文句が映る。そのことに気づけただけでも良かったのかもしれない。
もちろん、アルミが、世間的には知られないかたちで人の目を集めるような事件を起こしている―なんて証拠はどこにもないのだけれど。
「過去の栄光よりも、未来に我々がなにをするのかを考えるべきなのだよ」
「ですです。もう一度、五人でできること探しなのです」
トシとジュンペーが、能天気にも近い前向きさを発揮した。俺もユウシも苦笑いをしながら、ふたりのペースに巻き込まれるしかなかった。やがて話にヒロムも加わり、トシが「パソコン部らしくオンラインゲームでサーバー一位取るのだよ」と言えば、「なんで、わざわざ集まってパソコン越しに話さなきゃいけねえんだ、バカ」とつっこみを入れるようになった。いつもどおりに。
コンビニから駅までの道のりを五人でぞろぞろと歩いた。ユウシは、二週間ぶりに会ったみんなとの会話を楽しむように、うんうんとうなずいたり、自分が休んでいた間のことを聞いたりしていた。改札を抜けると、ちょうどユウシの乗る電車がホームに入ってくるところだった。
「それじゃ、お先に」ユウシは、そういうとホームに続く階段を降り始めた。
「またな。あんまりムチャはするなよ!」俺は、ユウシの背中に声をかけた。
階段を降りきったところで足を止めたユウシが、くるっと向きを変えて俺に微笑んだ。
それが俺の覚えているユウシの最後の笑顔だった。
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