5-2. 俺はジュンペーの肩をぽんぽんと叩くと、マンションの陰になっている階段に移動した。

 俺はジュンペーの肩をぽんぽんと叩くと、マンションの陰になっている階段に移動した。ワンショルダーのボディバッグからメモ帳とシャープペンシルを取り出し、シャープペンシルを指先で一回転させる。知りたい情報はたくさんあった。―倒れていた人が運ばれた病院。倒れていたときの状況。事故が発生したときの状況。警察の動き。

「ユウシくんの自宅がわかれば、すぐに確かめられるのですが……」

「これまでは、自宅の住所なんか知らなくても、連絡とれてたからな」

 親の世代は違ったみたいだけど、個人情報の保護が声高に叫ばれる俺たちの世代では、学校がクラスメイトの住所を全員に教えるなんてことは、まずない。俺たちだって、友人の住所を知ることなんかより、メッセンジャーでつながることの方が大切だと思ってる。ましてや、俺たちは卒業した小学校も中学校もバラバラだ。つまり俺たちは、互いの住んでいる場所も知らないまま、仲間になる。

「調べなきゃいけない情報は、これぐらいかな」書き出したリストをジュンペーに見せた。

「この近くには学校も団地もある。俺はここから駅前の方で聞いてみるから、ジュンペーはここから南側を回ってくれるか? なにかあればメッセンジャーで連絡くれ」

 俺が話し終えると、ジュンペーは「うん」と小さくうなずいた。

 さんざん街を歩き回って、いろいろなうわさ話を聞いた。なかにはトンデモ系な話もあったけれど、たくさんの話を聞いているうちに、うわさ話がぼんやりと情報の輪郭線を描くのを感じた。八幡山駅の高架下にあるガードレールに座り込んでジュンペーを待つ。スマホを見ると、午後六時を回っていた。

「お待たせしましたのです、イチくん」

 シャープペンシルを回しながら頭の中を整理していた俺の耳に、ジュンペーの声が響いた。

「僕の方で集めた情報をまとめたものを、さっきメッセンジャーで送っておいたのです」

「サンキュ。それで、特に気になったことは?」

「事故が起きたときの様子は、たぶんイチくんが調べたものとほぼ同じなのです。ただ――」

 こちらをちらっと見て、ジュンペーが声のトーンを下げた。

「事故が起きた前の日の深夜二時過ぎに、倒れていた人と同じ人と思われる、長い髪を後ろで束ねた少年がマンションの方角に歩いていったらしいです」

「……長い髪か」それが一三階から転落した人の特徴だと、俺もさんざん聞かされた。

「結局、ユウシからは連絡がなかったな」「そうなのです」

 俺は取り出したメモ帳に、ジュンペーの送ってくれた情報を書き加える。

 マンションの一階にある植え込みの中に、頭から血を流して倒れている長い髪の少年が発見されたのは、今日の午前五時三〇分過ぎだった。最初に発見したのは、朝刊を配達しに来た新聞配達員。マンションの屋上に、少年のものと思われる足跡が残されていたこと、遺書らしきものが見当たらなかったこと、屋上に争った形跡がなかったことから、少年はなんらかの理由で屋上に上がり、誤って転落したと警察は考えている。転落事故が起きたと思われる時刻は、今日の午前三時ごろ。近所の人がドスンという鈍い物音を聞いたらしいと、何人かの自称情報通がツイッターに流していた。

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