見出し画像

首ノ痛ミニ七転八倒

毎朝、毎朝、飽きることなく、二日酔の頭に響くけたたましい雄鶏のような目覚まし時計が鳴った。

右肩を支点に左肩をあげ、左手で目覚まし時計を止めようとしたところ、左頭後方の首の付け根から、左足のかかとまでを貫く筋に、空を駆けるイナビカリのような激痛が駆けた。

動けない、すこしでも体を動かすと激痛、鈍痛、ピキッと音がする痛みが筋を叩いたり、絞めたり、騒ぎだす。

ヒーローがひっくり返した車から這い出す悪党のような態勢で、布団から這い出し目覚まし時計を止める。

立ち上がらなければならない。どう動けば、首は痛くないのか。顔は前方をむいたまま視点を固定させ、首を動かさなければ、モーレツな痛みはこない。

首を動かさないように慎重にスロウリーに朝のいつものルーチンをはじめる。動くたびに、いちいち痛みがはしる。首に小さい醜悪な悪魔がとりつき、小さい針やコンパスの針、五寸釘を動くたびに刺しているように感じられる。

パジャマを脱ぐ、Tシャツを着る、ズボンを履く、布団を押入れに収納する、顔を洗う、歯を磨く、ズボンとパンツをおろす、西洋便器に座る、キバル、放尿する、トイレットペーパーをとる、トイレットペーパーでお尻をふく。この行為ひとつひとつが痛い。生ハムの原木を鋭利な刃物で削るように、痛みによって体力をごっそりと削られる。

ご飯を食べようとしたところ、すこしの迎え口がクセになっていたようだ。顔をすこし突き出し、パクリとご飯を食べる。その行為のたびに、ズキンズキンと痛みがアゴと首に波紋のように広がる。固形物を食べる気力は失われた。三日間、ゼリー系の食事でしのいだ。

ペンなどを地面に落とす、それを拾う、この作業がスムーズに行えないのだ。ナメック星にむかう修行のように、ゆっくりとしか動けないのだ。首の痛みをかばおうとすると、しゃがむ動作は滑稽なほどゆっくりとしたものになる。

腰を痛めたのですか?と聞かれる、いいえ、首ですと答える。なんで首が痛くて、そんな動作になってんのという会話が非常にうっとうしかった。

首の痛みは、人には見えない。歩くとき、動作をするときは、太郎冠者太郎冠者という伝統芸能のひとたちのように、顔を前面に固定する必要がある。そこでどうしても動作が、スターウォーズの金色のロボットのように遅くなる。おっせなぁ、コイツという声が聴こえ、視線で罵られる。そこで首が痛いときはコルセットを巻くとよい。首の痛みをまわりにアピールできるからだ。首を痛めているときに、コルセットをしておけばよかったとのちに気付く。

パソコンの画面を見て作業をする、これはまだマシだ、すこしズキズキと首は痛むが。

コーヒーを飲む、電話をとる、紙をめくる、この作業ひとつひとつが、これまた痛い。よく飽きもせず、これだけ痛みを繰り出せるなと感心したものだ。

仕事も終わり、ゼリーを飲み、ボーとしていると、首のあたりが熱くなってきた。首を通っている血管が膨張し、ドクンドクン脈打つ。そのたびに、つぅ~と言いたくなる痛みがくる。ドクン、つぅ~、ドクン、つぅ~、そして脈打ち5回に1回ほどの割合で、顔がゆがむほどの痛みが襲いかかる。

漫画『 キングダム 』より

5回の脈打ちのたびに、絵のような顔になる。痛みをごまかせないものかと、ふるびたコンクリートの壁に囲まれた動物園の猛獣のように部屋をうろうろ歩いたり、猿山の霊長類のように、うろんな眼でアグラを組み座ってみても痛みはおさまらない。

継続的にしつこい首の痛みのせいで、頭の内部のツルツル脳みそまでが痛みを訴えだす。どうしたら、ええんや、と泣きたくなってきた。

ここで空から天啓が舞い降りてきた。人間の頭はボーリングの球ほど重く、それを支えるだけで首に負担がかかっているこを思い出す。寝ころべばいいんだと気付く。

布団をしく、痛む、枕をセットする、痛む、布団に寝転がる、イテテッと痛む。ファラオのように首をまっすぐに枕におき、目線は天井の染み。首の痛みがすこしだけ軽減された。5回に1回の鈍痛もこない。

すーっと眠りの尻尾をつかんだ。いつもなら酒を飲んで、気絶するように眠るのだが、激痛のおかげで酒を飲む気にもならない。眠りの尻尾をたぐりよせ、首にまきつけ、静かに、ゆっくり、まどろみ、寝ているあいだは痛みとは無縁だろうと思いながら眠った。睡眠中も痛みとは、無縁ではなかった。

寝ていると、20分~40分ごとに痛みがひどくなる。おなじ姿勢をとり続けることで、神経がこわばるのか、血管が膨張するのか理由はわからないが、わちゃわちゃと痛む。すこし態勢を動かしかえると、痛みはゆるんだ。その態勢をキープしながら、うとうとと眠りにつく。そしてまた痛みに起こされる。3度目になると、ぜんぜん眠くならない。姿勢をキープするのも疲れる、ヒマになる。首の痛みに耐え、電子書籍を布団に持ちこみ、真っ暗な部屋でひかる真空管のテレビのような灯りに照らされた文字を読み、眠くなるのを待った。

以上の生活を3日続けた。4日目に首の痛みはマシになり、ゆっくり寝ることができた。あと1日ほど首の痛みがマシにならなければ、ヤバイことになっていたと思う。

首の痛みがマシになり、すこしづつマッサージやストレッチを生活にとりいれ、7日後には首の痛み、違和感はすべて無くなっていた。

痛みのない普通の生活、すべてに感謝を捧げたい。痛みのない生活、それはそれだけで行動的になれ、何でもできるゾという明るい前向きな気持ちにさせてくれる。

あとから思い出し、考え、メモし、コルセットのように首が痛いときの対策をおもいつくままに書いておく。

まずは絶対安静、動く必要がないなら動かない。コルセットがあるのなら、首にコルセットをはめておく。サロンパスもあるなら貼っておく。

そして首を触り熱をもっているようであれば冷やす。首の痛みは、冷やすか温める治療方法どちらもある、ここの見極めは素人には、非常にむずかしい。わたしのケースでは、冷やすと楽になった。

痛みのある生活の苦しさ、痛みのない生活の素晴らしさを記し、健康ナ首ニ感謝ヲ捧グ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?