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ジョージのピストゥスープ


ピストゥースープ

ジョージと夏の想い出

太陽の光が一段と眩しくなる季節。
近場の散歩から帰ってきて、車から降りるや否やマリア・カラスの歌声が道端に溢れ出していた。
それと同時に、決して上手とは言えないジョージの歌声もマリア・カラスと共にうるさく鳴り響く。

『また始まった!全くもう!!』
『ジョージ、ご近所に迷惑、いい加減にしてよ!』と
妻のイルミーヌは最高に不機嫌になる。

妻の留守中、自分だけの時間を大好きなオペラで楽しんだジョージは、妻の帰宅と共に現実に戻された。

顔を合わせた途端、二人の口論がまた始まる。

だんだんイルミーヌの怒りはオペラからいろんな事へ飛び火する。

ジョージは一体いつになったら、浄化槽の問題に取り組んでくれるのかしら。
庭が臭いし、これから暑くなるとこの臭いはきっとエスカレートするでしょ。
本当に自分でやるつもりなのかしら。

フランス人は壁紙を張り替えたり、家のちょっとしたリホームなんか結構自分たちでやる人が多い。
誰でも簡単にできるよう、道具や素材などを専門に扱うお店があるし、
選択肢も豊富で不器用な私でも見ているだけで楽しくなってしまう。

だから浄化槽を取り付けることも、フランス人にとっては特別な事ではなさそうだ。

しかし、ジョージは絶対に浄化槽なんて取り付けないだろう、いや取り付けられないだろうと家族の誰もが思っていた。

それは彼が不器用だからだ。

イルミーヌはひそひそ声で続ける。
『本棚を作って、って頼むでしょ、出来上がった本棚に本を並べるとだんだん本が傾いていくのよ』

『でも本人は、なぁーんにも気にしていない、仕方ないから自分で修理するか或いは息子に頼むしかないの』

こんな感じで、ゴンザレス家のありとあらゆる修理関係は息子がやる、という事になっているようだ。

この一連の会話を側で聞いていた息子は、いつもの様に、ふぅーと大きなため息を吐いた。

不器用なジョージ。
私は嫌いではなかった。

彼は人懐こく、おしゃべりが大好き。
機嫌が良い時には決まって大声で歌を披露する。

はて、ジョージが得意なことはなんだっただろう。

ある日お家にお邪魔すると、ジョージは庭にいた。
毎年、彼は庭にはトマト、インゲン、ズッキーニを植える。

不器用だったはずのジョージが作るトマトは香りがよく、ズッキーニも実がしまっていて瑞々しい。
そして何より驚いたのがインゲン。
ジョージのもぎたてのインゲンを蒸すと柔らかくて、甘い。
美味しいインゲンをもらった時はシンプルに蒸してトマトなどと和えてサラダにする。

ジョージにズッキーニやトマト、そしてインゲンを袋に入れてもらうと、
お昼に誘われた。

今日はピストゥーを作ったんだ。
ここ、南仏では夏にみんなこれを食べるんだよ。

庭の小さなテーブルにお皿を並べ、ビストゥースープが注がれた。

ピストゥースープにはもちろんジョージが作った野菜が入っている。
ズッキーニ、トマト、インゲンの他にはジャガイモ、赤や白い豆、ショートパスタなどが入った実沢山のスープだ。
これにピストゥーというバジルソースをかけ、チーズをたっぷりかけていただく。

いろんな野菜や豆の旨みがスープに溶け込み、バジルの青々しい香り、チーズのコクがうまいこと1つにまとまっている。
野菜だけでこんなにも美味しいスープができるなんて!
これにはジョージの作った野菜の力も十分に働いていると思う。

庭では蝉がミンミンとうるさく鳴いていた。
南仏では蝉は幸運を運んでくれるという言い伝えがある。

暑い日が続くと、木陰で食べたピストゥスープの香りと蝉の鳴き声が私の記憶の中でリフレインする。

ジョージが作ったスープとは違うけれど、手に入る材料で作ってみる。

ピストゥスープの材料

材料:紫花豆300g、ジャガイモ2個、人参1本、セロリ2本、空豆適量、ショートパスタ、バジル1束、ミニトマト8個、ニンニク2かけ、塩、オリーブオイル(スパイシーなオリーブオイルが合う)

下準備:
*紫花豆は一晩水に浸けておく。翌日、豆の量の4倍くらいの水と塩少々を入れて圧力鍋で煮ておく。
*ミニトマトは湯むきして、種があれば取り除く。
*空豆は鞘から取り出し、塩水で茹でて皮を取り除いておく。
*じゃがいもは皮を剥き乱切り、水にさらしてザルに上げる。
*セロリ、にんじんは角切り。

スープの作り方

  1. 厚手の鍋にオリーブオイル大さじ3程を入れ、鍋が温まったらジャガイモ、セロリ、にんじんを炒める。

  2. 塩を入れよく混ぜ、紫花豆を加える。

  3. 鍋の材料が充分にかぶる位の水を入れて野菜をコトコと煮る。

  4. 途中味を見て、塩が足りなければ加える。

  5. 野菜が煮えてきたら、ショートパスタを加える。

*ここで使用した塩はゲランドのGros selと呼ばれる粒の大きい調理用の塩を使いました。

パスタが煮える間にピストゥを作る

  • バジル、ニンニク2個、ミニトマト3〜4個をミキサーにかけ、途中オリーブオイルを加えてよく混ぜる

  • 滑らかなソースになったら出来上がり。

5の鍋に空豆と残りのトマトを入れて少し温めるくらいに煮る。
スープ皿に注ぎ上からピストゥをかける。
パルメザンチーズなどをすりおろしてスープの上にかけ、よく混ぜて食べる。


















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