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菰野江名「つぎはぐ、さんかく」感想~じっくり咀嚼すると深みのある味わいが増す一冊~

読んだ本としてよく紹介されている本書。

目に留まる機会も多く気になっており、図書館にあったので借りようかと迷ったが、その日は、ほっこりの気分じゃなかったで止めておくことに。

ポプラ社小説新人賞受賞作という冠と装丁から想像し、🍴(*ˆ~ˆ*)ŧ‹”ŧ‹”ほっこり本だと思っていたのだが、読んだ人によると事情を知れば知るほどなんちゅう設定で想像外の作品だったらしい...。

なんですとーー!

総菜屋の三兄弟が、お客さんや近所の人たちとの交流を描く人情噺かと思いきや...違うってことですね!

違うどころか、なんちゅう設定というところに食指を動かされ読んでみる。

惣菜と珈琲のお店「△」を営むヒロは、晴太、中学三年生の蒼と三人兄弟だけで暮らしている。ヒロが美味しい惣菜を作り、晴太がコーヒーを淹れ、蒼は元気に学校へ出かける。


長男の春太と長女のヒロで総菜と珈琲☕の店を切り盛りている。

ある日、次男の蒼が中学卒業後は家を出ると言い出した。
動揺する兄と姉。
両親がなんらかの理由で不在で、親代わりとなり三人で暮らしてきたから寂しさから動揺しているのかと思っていたがそうではないようだ。

物語は長女のヒロ目線で語られるのだが、最初は人つきあいが苦手な不器用な子なのかなぁ~と思っていたが、それだけではない事情がありそう。

大人になっても、話を聞きながら同時に手を動かすができず、小学生のころは、話す言葉を頭の中で組み立てて、発音を考え、それをやっと口にしていた。

だんだんと明かされるヒロの事情に、なんということでしょう!

なんということでしょう!は、ヒロだけではなく、あとの二人もそれぞれ複雑な事情を抱えているのよ。


身勝手な大人たちに振り回されてきた三人。

その身勝手な大人のひとりが、巷で話題のビッ〇モーターのようなオーナー企業の社長なのかな?

とにかく血を重んじ、自分の立場ばかりを主張し腹立たしい人だった。

「たとえそのつぎ目が不格好でも、
つながっていられればそれでいいと思っていた。」(本文より)

三人でいれば大丈夫だと思い込もうとし、外を見ようとしなかったが、蒼の家を出るという宣言がキッカケとなり、そろぞれのアイデンティティを探し始める。


イチオシ商品のポテトサラダとかハニーマスタードチキンとか、珈琲の香ばしい香り...などなど美味しい描写もたくさんあるけど、軸になってるのは、現在の自分が何者で、将来何でありたいのかを見つめる、つまりは個々のアイデンティティの確立だったのではないのかな。


手軽に簡単に食べられる作品かと思っていたが、じっくり咀嚼すると深みのある味わいが増す一冊だった。


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