七年前に
夫の一樹を亡くしたテツコと、
現在も同居を続ける一樹の父・ギフ。
そして、
そのふたりの周りにいる人たちを
描いた物語です。
まだ一樹が生きていたころ、
そのお見舞いの帰り道、
深夜のパン屋さんで買ったパンを
抱きかかえて歩く
テツコとギフ。
私がこの小説で、
いちばん好きな場面です。
テツコも、
ギフも、
その周りの人たちも、
みんな愛らしくて
やさしい人ばかりで
みんなほんとうに
素敵なのですが、
私は特に
テツコの恋人の
岩井さんが好きです。
作中に
八木重吉の詩が出てきます。
「うつくしいもの」という詩。
岩井さんは、
誰よりも「ほんとうに 美しいもの」を
信じている人です。
ちょっと抜けていて、
ぜんぜんかっこよくないんだけど、
とても素敵な人です。
彼らの何気ない生活と言葉が
心をあたためて、
柔らかくほぐしてくれました。
生きる力をもらえる小説です。
『昨夜のカレー、明日のパン』
木皿泉
河出書房新社