『いつか王子駅で』堀江敏幸
語り手である<私>の、
どこまでも自由に広がっていくイメージを
一緒に辿っていくのが心地良かったです。
何気ない会話、
読んでいた小説の一節、
目に映ったものが
過去の記憶と繋がり、
<私>の頭の中でゆったりと静かにふくらんでいくーー。
昇り龍の正吉さん、
居酒屋「かおり」の女将さん、
大家さんとその娘の咲ちゃんなど、
魅力的な人たちとの会話も楽しく読みました。
王子駅を後にする女将さんの姿、
咲ちゃんの走る姿を思い浮かべながら、
私は二度と戻らない時間の中を生きているのだと、
唐突に思いました。
もう少しだけ、<私>の日常を、
正吉さんの姿を、咲ちゃんの成長を、見ていたかったです。
読み終わるのが惜しい小説でした。
『いつか王子駅で』
堀江敏幸
新潮社
2001.6