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新参ファンがBUCK-TICK語る「2022 "THE PARADE" 〜35th anniversary」 @横浜アリーナ感想

BUCK-TICKの35周年記念ライブに行ってきました。
以前こういう記事を書いた者です。

自分がこのバンドに魅了されてファンになったのが、遅まきながらも2019年。そこから「ロクス・ソルスの獣たち」に参加し、『ABRACADABR』のリリースに唸り(年間ベスト記事#11)、「TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN」を観、土曜日はSATURDAY LIVE STREAMINGでその歴史の深さと変わり・変わらぬ魅力に沼り。そして訪れた35周年記念ライブ。35……改めて本当にすごい数字だ。

今回はその感想。とはいえ記憶力がないので「読んでてあの日のライブの模様が浮かびあがる」というより「自分の好きなBUCK-TICKの曲・魅力」って日記です。思い返すにはコチラがよいです。

この記事は、さらにグデグデとあの日、このバンドについてまだまだ馳せたい人(=自分)に向けて書きます。浸ろうや。


前段

横浜アリーナは初めて訪れました。キャパシティは1万人くらいみたいなので2万人が参加したことになるのかな。9/23はODD BRICK FESTIVALもあったので横浜が熱かった。

二日間両日に参加しまして、いずれも3階スタンド席。DAY 1は真横、DAY 2はセンターの位置でした。この記事は、2日分のセトリを並走しながら曲を振り返っていきます。照明効果などは全てセンター側の印象です(真横の席だとそのすごさを感じづらかったので2日目がセンターでホントに良かった……)。

セトリはこちらが分かりやすいです。


ライブに入る前に、すこしだけ新参目線で語ります。(以下、敬称略)。


■BUCK-TICKは領域を拡張する=変わらずに変化し続ける

バクチクはよく「変わり続ける」(進化し続ける)バンドと言われますが、時々の志向や時流によって音楽性が激変するカメレオンバンドではありません。アルバムを時系列で辿ると感じるのはむしろ「変わらなさ」です。それは「愛」「生(性)」「死(逃避)」って一貫した作詞テーマだったり、音楽的なクリシェ、表現姿勢、あるいはバンドそのもので、軸や芯にブレがない。

だけど同時に、バンドのモードは常に違うし、同じようなアルバムは存在しない。自分の印象では、BUCK-TICKは「変わり続ける」もとい「その領域を拡張し続ける」存在です。今まで”なし”だった領域を”あり”にしていく。それはバンドのルーツであるニューウェーブが夢見た一新の全て(あるいはDavid Bowieというアーティスト)だと思うし、それを35年間続けている凄み。長く付き合うことでこちらの耳も調教もとい教育されていく感じがあります。※1

そんな拡張は、挑戦の姿勢よりむしろ「自己分析(批判)力の高さ」から来てると。今まで自分たちが何をやってきて、何をやっていないのかの理解力、ここのキーマンは恐らく今井寿です。自分は時系列順に聴いた『或いはアナーキー』('14)の「DADA DISCO -GJTHBKHTD-」にブッ飛ばされました。バンドが過去に鳴らしてない音楽性だけを的確に射抜いた、むしろそんな作り方じゃないと鳴らしえなかったような奇抜な怪作。

BUCK-TICKには大いなるマンネリと挑戦が永遠に廻転していて、そんな円周の領域は今なお広がり続けている!そんなバンドの35周年が今回のアリーナライブということ。高まってくる。


本編

FLY SIDE / HIGH SIDEの序盤は6曲ものセトリ変更があり、ライブカラーの違いを強く感じさせました。改めて唸ったのは『BABEL』です。Eフリジアンスケールの、メタル(≒ゴシック)を感じるベースフレーズ。ドッシリ腰を据えたドラムスに対し、アウトトーンたっぷりに妖しく浮遊するギター。から放たれる「暗黒宇宙 私は無である」。こしらえた舞台に千両役者が出でるような貫禄の1曲です。

いっぽうで続く『Tight Rope』は地に足のつかない音像で揺れてみせる。この裏が『唄』なのにバンドサウンドのふり幅を感じます。『COSMOS』って本当に良いアルバムだと思ってて、今回バクチク王道ロックの神髄『idol』『Ash-ra』『Foolish』(この3曲もっと人気あって良いと思う)が来ることを望んでましたが叶いませんでした。いつか。

『見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ』のザクザクしたギターリフは、その身を削るような音像とは裏腹の音響的な快楽。『MOONLIGHT ESCAPE』は聴けば聴くほど沁みる名曲ですよね。『狂気のデッドヒート』『ダンス天国』※2は正に"なし"を"あり"に広げたマッドな曲。『BOY septem peccata mortalia』のサビの突き抜けぐあい大好きなんすが、50歳でこれ書けるの正気じゃないぜ。


■BUCK-TICKのライブ(セトリ)は沼る ~ 『禁じられた遊び』

SATURDAY LIVE STREAMINGを見てて実感しましたが、BUCK-TICKのライブには「定番」「王道」と呼べる流れがなさすぎて、ディスコグラフィの豊富さ相まってセトリが無限になっています。セトリが沼い。ライブを観るほどに「こんな良い曲あった(だった)んだ」って発見の果てしない連続です。

個人的に今回その枠だったのが『禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-』。これすごく良い曲ですね……。年輪を刻むように歳を重ねているミュージシャンってすごく素敵だと思うんですが※3、この曲での櫻井敦司の作詞・歌唱はまさにそういうものでした。どこまでも優しくて、決して押しつけがましくないほど深かった。20,30代じゃこうは歌えないだろうと。今井・星野さんのツインギターアンサンブルも幻想的でした。ふたりのギターの明確なリード・バックの役割分担、すごくバンドを感じて好きです。


■拍手すら躊躇わせる瞬間 ~ 相変わらずの~楽園

自分がB-Tに「ヤベェじゃん」となったのは『無題』のライブ映像だったんですが(そういう新参ファンたぶん多い)※4、そこから感じいったのは、BUCK-TICKのライブには演奏後に拍手していいのかすら分からなくなる時間がある所です。突き放されるというか、あまりに引きつけらたがゆえに引き離されてるみたいな。

この日だと『相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり』『楽園』の流れにそんな瞬間がありました。特に『相変わらず~』の演出は「ABRACADABRA ON SCREEN」でも鮮烈でしたが目前で展開されると圧倒されてしまった。サイケとかダブとかドゥームとか、そういう音の飲み込み方じゃないんだよな。今井ワールド。今井さんは鮮やかなコード進行、ギターリフ主体、ワンコードの曲どれも書けるからすごい。


■演目『ゲルニカの夜』

"あまりに引きつけられ"で言えば、櫻井敦司の演劇性も取り上げたい。B-Tの永遠の変化にファンがついていけるのは、根っこのポップ意識もですが、櫻井敦司が主演の様々な演目を観ている気分になれるからじゃないかと思うんです。※5。何やられても、オッ今日はこんな表情を……ってなる。これは実際のところ今井さん星野さんも「さて、今度は何を歌わせようか」っていう意識を絶対持ってて、櫻井さんも「どう返すか」を楽しんでいる(はず)。このへんの緊張感がバンドの挑戦的な創作姿勢に繋がってると想像します。

この日では『舞夢マイム』もそうですが、とりわけ『ゲルニカの夜』ですね。演目と呼ぶに等しい、重く苦いワルツ。2日目の、「夢を見たんだ……」の一声から曲に入っていった姿が忘れられません。あらためて『No. 0』は最高傑作のひとつだなと確信を深めた。


■『さよならシェルター』、iTunesでいいから配信してくれないか

ベストアルバムを購入してないので、「さよならシェルター」について"すげぇ良い曲だった"以外を記憶から揺り起こすすべがない(トレイラーからサビは聴けますが)。サブスク公開はともかく、せめて古のiTunes Storeで単曲買えるようになってほしい気持ち。2日2万4000出してさらに7000円弱のコレクターCD買う余裕は……。


■『New World』から『夢見る宇宙』へ

本編に戻って。すっかりコロナ以降アンセムとなった『New World』のエンディング。ラストで今井さんと星野さんがX字に世界を切り拓いていくの何度見ても良いです。照明もすごかった。屋内であることを活かした演出が光っていて、前回の野外と差別化出来ていた。

個人的に嬉しかったのは『夢見る宇宙』。前回の記事でも書いたようにスマパン・シューゲイズの名曲。やっぱりこう、新しい世界を掲げたなら、その次は宇宙くらい夢見るのが正しい姿だと思うんですよね。両日披露だったのに希望の狼煙を感じました。


にしても「PARADE」「FLY / HIGH」「anniversary」とは……って重めでコンセプチュアルなセトリ。『ユリイカ』とか、全てにおいて相応しいし120%やると思っていたのに。いつか30周年みたいなお祭りにも参加したい。ただ2日目ラスト4曲の、もはやボスラッシュな連打には震えました。だってこの4曲で90/00/10/20sの4年代揃ってるし。ヤバすぎる。

長くなりましたが次の曲でラストです!ありがとうございました!


■『鼓動』

どこでも終われそうな4曲の中、最後にこの曲が歌われたことで全てをもっていかれてしまった。大切な楽曲として折にふれて演奏されているのでファンの方には馴染み深いエンディングだっただろうが、自分としては初めての体験だったのである。

櫻井敦司に作詞家としての自我が芽生えたのは『さくら』からだと考えている。その自我は、『darker than darkness -style 93-』で喧噪にさいなまれる自虐的なロックスターとして膨張し、『Six / Nine』で崩壊に至ると同時に『鼓動』の悟りに立った。この頃の櫻井敦司は今よりずっと言葉選びが直接的だ。特に『鼓動』はモチーフも何もない完全な吐露である。「なぜ生きている 知らないけど それでも激しく 生きていたいと思う 愛されてるなら」。詩としては無骨といっていい言葉の並びだ。だけどだからこそ「ごめんなさい ありがとう」と続けられたんだと思う。ここの太字のラインが櫻井敦司の基本理念だ。ほかの全ての言葉は祈りである。「この世に生きるすべての鼓動 悲しいことは何もない」。

CD音源では無機質な広大のような不思議な音像を展開しているが、大音量で鳴りわたるライブ版はただただ壮麗で雄大だった。メロディはロッカバラードだが、サウンドスケープは轟音系ポストロックの域にある。ふだんはバッキングとリードで明確に分かれている二人のギターを重ねて響かせていることに感じ入ってしまう。「悲しいことはなにもない」。そんなわけはない。それは本編でまさに証明したことだ。でも、『鼓動』の祈りが捧げられたあとは、今日だけはそう信じられるような、そんな景色がそこに広がっていた。


この先、40周年と活動を続けていっても、BUCK-TICKの表現姿勢やメッセージの根本は変わらないだろう※6。仮に40周年のエンディングが同じく『鼓動』であっても、そこには変わらない説得力がただ年月の重みを増して宿っているはずだ。世界を切り拓いて夢を見たなら、後はもう生きていくしかない。生きていたいとせめて思えることを願うしかない。ただその繰り返しだ。だからBUCK-TICKは同じことを歌い続け、でも音楽でもって違う世界を拓き続ける。そのメッセージと存在は確かに今も響いている。きっと5年後、そしてその先も。そしてこの2日間は、自分にとっても生きていたいと思える日だった。


注釈・補足など

※1. 個人的に言えばBUCK-TICKを経ることでNine Inch Nailsやハードロック全般に目覚めることが出来ました。『Pretty Hate Machine』('89)カッコよすぎる……B-Tとの親和性も高いと思います。今井さん絶対すき。

※2. MCでは「Let's Dance!!」とボウイのフレーズを引用していました。でもダンス天国に出てくるリフはSteppenwolfの『Born To Be Wild』なんですよね。ややこしい笑。

※3. 伝わりづらいかもしれませんがこの年輪が凄いのが井上陽水です。還暦にて発表した『覚めない夢』聴いてみてください。「人  生」と感じざるをえない。

※4. 完全に違法アップロードなのでふれるのも良くないですが、Youtubeにある「LUNATIC FEST出演時のBUCK-TICKのライブ映像」はかなり新規ファン獲得に貢献してると思います……。

※5. もちろん5人全員が強くて。常にビジュアルイメージの水準が高い。高いもそうだけど、何より35年オールタイムで"低くなった時期がない"これが一番すごいなと。このバンドのステージを観てると何かを摂取できる。ありがてぇ。

※6. スピッツとBUCK-TICKは個人的に近い存在です。草野マサムネと櫻井敦司と言っても良いかな。語弊ありますが、「この人がこの人のまま、この世界で生きてこうと思えているなら」っていう、そんな個人的な人生観の礎みたいな。せっかくなので両者の2002年の傑作でもって締めますか。音楽性は異なりますが、BUCK-TICKファンの方にもスピッツ聴いてみてほしいですね……(逆もしかり)。


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