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怪談と豚骨ラーメン


寄席が好きだ。毎年、末広亭の怪談興行には必ず行くことにしている。今年は昼の部が桂歌丸師匠の七回忌追善興行、というのもあって昼の部の終わりから行ってみることにした。
昼の部では出演者それぞれが歌丸師匠の思い出をそれぞれに話し、師匠にちなんだ噺を演じる。
年下の芸人にタメ口を聞かれたときにさらりとかわしたエピソードだとか、雨漏りのする楽屋でひとり傘をさしていたとか…師匠がいかにユーモアと優しさにあふれた人だったか、聞いているとすこしずつ浮かび上がってくる。
いやそれだって桂歌丸、という芸人のわずかな横顔にすぎないのだ。「笑点」の司会者だったおじいさんがどんな人だったか、どれくらいの人が知っているだろう。僕は少しも知らなかった。別れることは出会うことなのだ、と思うことがあるのだけどまさにそれだ、とも思った。

夜の部は、子褒め、代書屋、唐茄子売り…。
じめっとした暑さを吹き飛ばすように明るい演目が続く。主役はみんなマヌケで、あかるくて、声がデカいやつら。みんな一生懸命なのだ。
ボンボンブラザーズの、おなじみの「帽子なげ芸」もあった。舞台から投げられる帽子を頭で受け止める芸に観客のひとりが挑戦するのだが、とにかく成功するまでやるのだ。みんな初めは笑い、だんだんと真剣になって、痺れを切らさせはじめる……。
体感で6,7分くらいだろうか、拍手喝采が巻き起こるまでは。

いよいよトリの怪談。クライマックスでは照明が消され、真っ暗になった場内を幽霊に扮した「幽太」が駆けめぐる。けっこう怖いし、実際客席からはヒャッとみじかい悲鳴が聞こえてきた。
でも幽太を演じているのは若い前座の落語家たち。「うわーっ」と声をかける様は脅かそうと一生懸命になりすぎていてどこかおかしい。だんだんと笑いも漏れてくる。悲鳴と笑い声が同時に聞ける空間というのもなかなか無いだろう、すさまじい緊張と緩和である。一生懸命な人は美しい。そしてやっぱりどこか可笑しいのだ。


太肉麺、1300円。

いい時間のあとはおいしいものが食べたくなる。近くにある桂花ラーメンに寄った。
昭和43年に東京に初上陸したという熊本ラーメンの老舗だ。太肉麺(ターロー麺)はスパイスの効いた角煮がのった濃厚な豚骨ラーメン。麺はちょっと硬めの中太麺だ。
前に食べたときは麺の食感が苦手だと思ったんだっけ。久しぶりに食べると、むしろその食感がうまい。ちょっとだけ生っぽい感じがうまい。上にのってる角煮は抜群にうまい。落語も好きだが、豚骨ラーメンも好きだし、角煮はもっと好きなのだ。

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