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歌集『風』原田洋子歌集を読む。-内容と造本の面白さ-

歌集『風』原田洋子歌集を読んだ。
「かばん」叢書の第三篇の歌集だそうだ。

内容と造本の面白さを感じたので、
簡単に紹介したい。

造本の面白さ

・一ページ一首で、短歌本文の文字が青い。
・表紙のタイトルの『風』の文字が、
凹んだ加工になっており、
インクの印刷ではない。
・表紙の紙に、波のような加工がある。
(そよ風を可視化したイメージか?)
という、『風』っぽさを演出する、
こだわりの造本だと思った。

1987年発行とは思えない、モダンでチャレンジングな装丁で、詩集っぽい印象もある。

本のモノとしての面白さも出ている。

短歌の概論

定型でない短歌が多い。
帯の中山明氏の解説の一部に「短歌が〜一行詩」という内容がある。

その点でも風のような自由さと掴みどころの無さを感じる。

五首選

すぎ去ってそれゆえ美しい遠い日々 夕べの椅子に坐っている

10ページ

遠景と、過ぎ去った遠い日々と、
遠いもの同士の取り合わせが詩的。

遠い日の足跡は海に返して波を静めるため水平線に白く雲を置いて

50ページ

絵画的な美しさのある一首。

足跡が波で消える様子だけではなく、
遠景の雲もあり、
近景から遠景のパノラマが良い。

音もなく夜に流れ込む波 貝殻を海に返すためのさようなら

72ページ

こちらも海の短歌。

夜の海とさようならの取り合わせが合っている。

光の交わる街中へ耳奥に積まれた静けさを溶かす

100ページ

街の喧騒と、自分の日常の静けさの対比。
多人数の他者と、一人の自分の対比。

「静けさを溶かす」という言い回しも
魅力的。

くっきりと月を描く空 遠く一つに集めたつぶやき

111ページ

「月を描く空」という魅力的な喩。

月をつぶやきが一つに集まったものという内容も詩的で独自性がある。

まとめ

概念的な短歌が多く、
タイトルの『風』を思わせるいくつかの特徴を感じた。
・自由にすり抜けていくような作風。
・掴みどころが無く、透明感がある。
・哲学的。
など。

過ぎ去った時間について言及する短歌も多く、過ぎていく風を連想した。

本と短歌の印象が合致していて、
考えに考えて作られた歌集だと感じた。

URL

歌人集団かばんの歌集のページ。

最後までお読みいただきありがとうございました。 もっと面白い記事を書けるように日々頑張ります。 次回もお楽しみに!