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焙煎度によりカフェインの含有量は変わるのか?

インターネットを検索すると、浅煎りに比べて深煎りの方がカフェインが少ないという意見とそんなに変わらないという二つの意見があります。

結局どっちが正解なの?と私は疑問に思いました。
そこで様々な資料を元に、私なりになぜこのようなことが起こるのかを考察してみました。

結論としては、「カフェインの含有量が変わるかどうかは焙煎プロファイルによるのではないか。」ということです。浅煎り、深煎りという枠だけで考えるのではなく、焙煎温度や時間、ハゼの状態、などが影響するのではないかということです。

ここからは、結論に至った考察の流れを解説していきます。

まず、基本的な情報として、カフェインの昇華点は178℃です。昇華点は固体から液体の状態を経ずに直接気体になる温度をさします。
昇華の分かりやすい例は二酸化炭素です。常温ではドライアイス(個体)が気体になって飛んでいきますが、この現象が昇華です。
ここでのポイントは、カフェインの昇華点178℃はおそらく大気圧下(1気圧下)の値ということです。(おそらく、なのは気圧についての詳細な資料が見つからなかったため)つまり、1気圧の状態では178℃を超えるとカフェインは気体となって飛んでいく。ということです。焙煎温度は通常200℃を超えるので、焙煎が深くなるほどカフェインが飛んでいきやすいと考えるのが自然なことかと思います。

ここで、少しコーヒー豆の構造と焙煎の過程についておさらいしましょう。
コーヒーの生豆の構造を細かく見るといくつもの細胞壁で囲まれた小さな小部屋が並んでいます。その一つ一つの細胞に水やカフェインなど様々な成分が含まれています。
コーヒーの生豆を焙煎していくと、硬い細胞壁がが緩み、水分が抜けやすいゴムのような状態になります。さらに焙煎を進めると水分が抜けていき、再び細胞壁が硬くなります(ガラス転移)。焙煎の過程で細胞内では様々な成分が化学反応が起き、二酸化炭素などのガスが発生します。この時、硬い細胞壁は膨張し、細胞内部に圧力がかかります。浅煎りでは8気圧程度、深煎りでは20−25気圧程度の圧力がかかると推定されています。この内圧に耐えられなくなり、細胞壁の弱い部分が壊れる時に音が出るのが2ハゼです。

さて、カフェインの話に戻しましょう。
先ほどカフェインの昇華点が178℃と紹介しましたが、物質は基本的に気圧が上昇すれば昇華点は上昇します。(理科の授業で学んだ水の三態を思い出してください。)
つまり、焙煎が進むにつれて細胞内にかかる気圧が高まり、カフェインの昇華点が上昇します。それにより、カフェインは固体の状態を維持し、豆の中に残るわけです。
カフェインの含有量が焙煎によりあまり変化しないのはこのような理由からだと考えられます。

しかし、焙煎度が深くなるほどカフェインの含有量が少なくなるという意見も無視はできません。
実際に同じ豆で3段階の焙煎をしてカフェインの含有量が低下したという報告もあります。

2020年にEuropean Food Research and Technologyに掲載された論文では、カフェイン量は焙煎度に大きく影響されると結論づけています。
2kgの生豆を浅煎り(190℃ 25分)、中煎り(220℃ 25分)、深煎り(250℃ 25分)の3パターンに分け焙煎し、カフェインの含有量を分析したところ、
浅煎り 6.42 mg/g、中煎り 5.77 mg/g、深煎り 2.63 mg/gの結果となりました。
つまり、焙煎時間は変えずに、温度を変えた場合には焙煎度が深いほどカフェインの含有量が減ったということになります。

このようなことが起こるのは2ハゼが影響していると私は考えています。
温度が上昇していくと、二酸化炭素の放出が増え、細胞内の圧力が上昇し、耐えきれなくなった細胞壁の弱い部分が壊れます。
これにより、細胞壁に穴が開くことでガスが抜けます。それにより細胞内の気圧が下がり、昇華点が下がることでカフェインが気体になりやすくなります。
また、2ハゼ後はコーヒー豆の表面に油が滲み出してくることから、コーヒー豆の内側と外側で連絡路のようなものができていると考えられます。
その連絡路からカフェインが出ていっているのではいかと考えています。

上記の焙煎はあくまでも実験で行なった焙煎なので、実際に美味しく飲める焙煎かは分かりません。実際には、浅煎りから深煎りまでにかかる焙煎時間はそれほど長くありませんので、現実的な焙煎に近づけることでカフェインの減少量がごく軽微なものとなり、その結果として焙煎度を深めてもカフェインの量は変わらないということが起こりうると考えています。

以上のことから、カフェインは焙煎によって変化するのかという問いに対しては、
焙煎が深くなるほど少なくなる傾向にあるが、減少の程度については焙煎プロファイルによるという結論に至りました。

あくまでも現時点で私が理解している範囲で、情報が少ない中での考察となります。この考えを補強するデータや、否定できるデータなどがあればご教授いただけると幸いです。

参考資料
1、コーヒーの科学「おいしさ」はどこで生まれるのか 旦部 幸博著 講談社
2、The content of polyphenols in coffee beans as roasting, origin and storage effect European Food Research and Technology (2020) 246:33–39


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