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寝ないでダラダラの原因、酒の飲みすぎのダメージ、パートナーの好みの変化、経口避妊薬とうつ etc.

最近読んで個人的に面白かった論文をいくつかメモっときます。

スマホの使い過ぎを治したければここに行け!

自然に触れあうとスマホの使用時間が減るぞ!みたいな研究が出ておりました。

周りに自然があると、注意散漫の傾向が緩和されることが示されていますけど、スマホに注意が向きがちな傾向を改善できるかはよくわかっていないところ。この研究では、701人の若者のスマートフォンの使用、テキストメッセージ、電話、および自然への暴露に関する約250万件の観測データを2年間分析して、自然の中での過ごし方とスマホの使用との関係が調べたんだそう。ここではみんなが自然に触れているかを調べるために位置情報データを使ってまして、自己申告に頼ってないところがありがたいですね。

その結果、

  • 参加者がスマホを見ている時間は、グリーンタイム(自然環境で過ごした時間)の2倍以上だった

  • 全体的に、自然の中で過ごす時間が長い人ほど、スマートフォンの利用が少なかった

  • ただ、グリーンスペースへの曝露とスマホ利用との関係は、自然への曝露量、種類、移動状態によって異なっていた。例えば、短時間のレクリエーション用グリーンスペース(公園とか)訪問中には電話やテキストメッセージの利用が増加した。また、ベースラインスクリーンタイムが長い人は、自然への曝露によるスマホの使用時間が大きく減少した

  • 自然環境への滞在時間が長いほど、スマートフォンの使用を減らす効果が大きかった。ただし、短時間でも、都市環境と比較してスマホの使用時間を減少させる効果があった

  • 自然環境内の一箇所にとどまることは、移動しているときに比べてスマートフォンの使用を減らす効果が大きかった

って感じだったらしい。要するに、自然の中で過ごす時間を確保するってのは、健康的なテクノロジー習慣を確立し、幸福度を高める上で重要な意味を持つのだってわけですね。

まあ参加者はデンマーク在住の大学生だけで、他の国や年齢層では結果が異なる可能性があるし、因果関係をはっきりさせるためにはより厳密な実験が必要なのは間違いないですけど、スマホの適切な使用という点でも自然と触れ合う時間は大事にしときたいですねぇ。

酒の飲みすぎは遺伝子レベルで脳を老化させる

アルツハイマー病の原因や治療法はまだはっきりしていないところも多いですけど、遺伝的要因のほか生活習慣も重要な役割を果たしているのは間違いないところ。

中でも(良くも悪くも)重要なファクターだろうと想定されているのがアルコールの摂取でして、適量なら脳を保護するというデータもある一方で、ほんの少量でもアルツハイマーに近づくなんて報告もあったりします。まあ両者の主張は角度が違う(細胞レベルでは傷ついてるけど他人と酒を飲むことで得られるソーシャルサポートが保護的に働くとか)ので相容れないというものではないんですけど、ざっくりとした分子メカニズムとしては、

  1. アルコールは、脳に直接作用し、神経伝達物質のバランスを崩したり、神経細胞の損傷や死滅を引き起こしたりする

  2. また、アルコールは、血液脳関門を通過しやすい有害物質であるアセトアルデヒドに代謝され、アセトアルデヒドは、脳内でタンパク質と結合し、アミロイドβ生成する

ってところは共通して認識されているところであります。

で、最近、米国の研究チームが、反復的なアルコール摂取は遺伝子発現パターンを変化させることでアルツハイマーを進行させるかもよ!みたいなデータを発表してくれてたのでこちらをチェックしてみましょう。

これは3xTgマウス(人間のアルツハイマー病と類似した老人斑と神経原線維変化を示すように遺伝子操作されたマウス)を使った研究で、4週間にわたって週4回、高濃度のエタノールを曝露したらしい。そんで、マウスたちの脳に起こっていることを調べたところ、

  • 反復的なアルコール曝露を受けた3xTgマウスは、対照群に比べて、記憶力や学習能力が低下した(2か月近く早く低下した)。また、脳内では、老人斑や神経原線維変化の量が増加し、神経細胞の死滅や炎症反応が起こっていた

  • さらに、遺伝子発現解析では、前頭前皮質全体の遺伝子発現に有意な変化が生じており、特に、アルコールに暴露されたマウスでは、神経細胞の興奮性、神経変性、炎症に関連する遺伝子の発現が増加した。これらの変化は神経細胞だけにとどまらず、アストロサイト、ミクログリア、内皮細胞などの支持細胞でも遺伝子発現パターンに変化が確認された

  • アルコール曝露マウスの遺伝子転写プロファイルは、同年齢のマウスよりも、認知機能低下がより進行した高齢マウスの遺伝子転写プロファイルに類似していた

だったそう。アルツハイマー病の遺伝的素因を持つマウスがアルコールの過剰摂取を繰り返すと、遺伝子発現パターンが変化し、脳内でアルツハイマー病の進行が早まるってわけですな。

まあマウスは人間と違って自然にアルツハイマーを発症するわけじゃないしどこまで人間に適用できるかは謎ですけど、疫学研究でもアルコールの習慣的な過剰摂取がアルツハイマー発症と関連するって報告も複数あるんで基本的にはアルコールは脳の健康にとっては敵なんでしょうな。実際の論文を見ていただくと実感するかと思うのですが、こんな風に遺伝子発現が変わると思うと酒を飲むモチベーションががっつりそがれますな。

歳を重ねるとパートナーへの好みはどのくらい変わるのか?

時間がたてば「理想のパートナー」の条件は変わるのか?変わるとしたら何で変わるのか?みたいなところを調べたデータが出ておりました。

ここでは、2005年から2018年までの間に、同じカップルに対して3回の調査を行ってまして、みんなには自分の理想のパートナーの特徴や、現在のパートナーとの満足度について尋ねたらしい。ザックリ言えば、13年間でパートナーに求める条件がどう変わっているのか?を調べたわけですね。

その結果を羅列するとこんな感じです。

  • 全体的に、理想のパートナーの好みはかなり安定していた。つまり、人によって理想のパートナー像はばらばらだが、同じ個人では13年間の時を経てもパートナーの好みは変わりにくかった

  • ただし、理想のパートナーの好みは、現在のパートナーとの関係に影響されていた。特に、現在のパートナーとの関係に満足している場合は、理想のパートナー像が現在のパートナーに近づいていた

  • また、理想のパートナーの好みは、年齢や性別によっても異なっていた。例えば、女性は男性よりも理想のパートナーに対して高い基準を持っていることが多く、年齢が高くなるにつれて基準が下がる傾向があった

  • みんなに共通した変化も確認されており、例えば年齢が上がるにつれて、肉体的魅力や富をあまり重視しなくなり、優しさやユーモア、価値観の共有といった特徴をより重視するようになっていた。また、親になったり、離婚を経験したりといったライフイベントが、パートナーの好みの変化と関連していた。そのほか、期間中に親になった人は、パートナーに地位や資源を強く求めるようになっていた

  • 参加者自身は、ほとんどの人が概して自分の好みが変化したと考えており、特に温かさ、信頼性などをより重視し、外見をより重視しなくなったと認識していたが、その認識は、必ずしも実際の変化と一致していなかった

ってことで、個人的には、思っている以上に人の好みって一貫してるんだなーって印象でしたね。あとは、理想のパートナー像は決して生涯固定されたものではなく、今の関係性や社会的な要因によって変化する可能性があるんだぞ!ってのは覚えとくとよいかもしれないっすね。

孤独感が高い人は見えてる世界が違う説

孤独感が高い人は情報の処理方法が違うのでは?みたいなところを示唆するデータが面白いです。

これは18歳から21歳までの米国の大学に通う1年生66人を対象に行われた研究で、みんなには2人の人物を描いた映画クリップを見ながら、機能的MRIを用いてスキャンを受けてもらったらしい。そんで別のアンケートで孤独感を測定して脳活動と比較を行ったところ、

  • 孤独感のレベルが高いほど、背内側前頭前皮質、前帯状皮質、上側頭溝など、社会的認知や社会的な情報の処理を司る脳領域でISC(他人との脳活動の相関)が低かった

  • また、孤独感のレベルが高いほど、島皮質や扁桃体など否定的な情動に関連する領域がより活性化していた

だったそうで、孤独感が社会的な情報に対する感受性を高めたりする可能性があるらしい。

研究チーム曰く、

われわれの結果は、孤独な人が世界を特異的に処理していることを示唆しており、それが孤独にしばしば伴う、理解されているという感覚の低下に寄与している可能性がある。言い換えれば、孤独でない人の神経反応は互いによく似ているのに対し、孤独な人の神経反応は、孤独でない人の神経反応とは著しく異なっていた

とのこと。孤独感が高い人はソーシャルサポートの認識レベルが低く周囲に人がいると特に警戒心が高まりますから、言われてみればあたり前の結果かもしれないですけど、それがここまで明確に示されたのはでかいっすね。

見方を変えれば孤独が孤独を助長してる可能性があるってことで、やっぱり人間関係は大事。。

寝ないでダラダラしてしまう原因は幼少期にあるかもしれない

寝なきゃいけないのにだらだらしてしまう!って経験は誰でもあるでしょう(Bedtime procrastinationとか言ったりする)が、そんな経験をする頻度は個人によって大きくばらつきがあったりします。で、最近の研究では、この個人間の違いは幼少期の育った環境に由来してるんじゃない?みたいな話になってて面白かったです。

具体的には幼少期の環境リスクとして厳しさ(家庭の社会経済的地位とか)と不確実性(親の離婚とか転勤とか)に焦点を当ててます。で、16歳から24歳までの453人の中国人大学生に子供時代に育った環境の厳しさや不確実性を尋ねて就寝時の先延ばし傾向と比較した結果、

  • 子ども時代の環境厳しさと不確実性はともに就寝時の先延ばしと正に相関していた。つまり、子供時代の困難な経験がその後の不健康な睡眠習慣につながっている可能性が示唆された

  • また、コントロール感は、厳しさや不確実性と就寝時の先延ばしとの間を部分的に媒介していた。つまり、自分の人生をコントロールしにくいと感じている人ほど、幼少期の困難が原因で就寝時間の先延ばしをしやすくなる可能性が示された

だったそう。まあ因果関係を決めつけるのは尚早でしょうけど、コントロール感が低いと将来の自分とのつながりがうすい(つまり、現在の行動が将来の自分にどう影響するかをイメージしづらい)なんて報告があることを考えると納得のいく話ではありますな。

とはいえ、子供時代の経験自体は変えられないんで、寝る前にスマホを手に取りだらだらしてしまう、みたいな人はとりあえず自分で設定したスモールゴールをコツコツクリアしていくとかコントロール感を高めるような介入を試してみるとよいことがあるかもしれませんね。

経口避妊薬でうつになる!は本当なのか?

経口避妊薬(OC)とうつ発症リスクの関連については一貫した答えが出ていないのが現状ですが、最近新たにこの両者の関係を調べた大規模な研究が発表されておりました。

これは、英国バイオバンクから得られた264,557人の女性を対象とした人口ベースのコホート研究で、うつ病の発症は、面接、入院、プライマリケアデータを用いて評価してます。さらに、7,354組の姉妹ペアで家族内交絡因子も検討してまして、これまでより因果関係もはっきりしそうでうれしい内容ですね。その結果は、

  • 経口避妊薬を使用したことのない女性に比べて、避妊薬を使用した最初の2年間はうつ病発症率が高かった

  • 経口避妊薬の服用を中止した女性でも、思春期に避妊ピルを使用していた女性のうつ病のリスクはその後も依然として高かった

  • シブリング分析でも、経口避妊薬使用とうつリスクとの間に有意な関連性が認められた

って感じ。まあ統計的に有意とは言えそこまで気にするレベルの影響でもないのかなって感じもしますけど、ホルモンレベルに介入してくるのは間違いないので、ピルを使うときにはメンタルヘルスにも気を付けておくのが賢明そうだよーってことで。これは男性側も意識しといたほうがいいでしょうな。

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