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これからの飲食店と「再現性」について思うこと

いつもたくさんの方に読んでいただいており、本当にありがとうございます。noteでは、イタリアンレストランのオーナーシェフである僕が、普段、考えていることをお店のスタッフに語りかけるつもりで書いています。

先日、尊敬する「サイタブリア」の石田聡社長と対談をする機会がありました。

とても刺激的な意見交換ができたなかで、僕は「顔が見える店」という話をさせてもらいました。その後、自分でも改めて考えてみたことを、今回は書いてみたいと思っています。

これからの飲食店は「再現性」より「最適化」

飲食店において料理や接客などのサービスに対して「再現性」という言葉を使って、いつ・だれが・どこでも同じようにサービスができることを目指すものです。

これについて、賛否両論あると思うのですが、僕自身は、飲食店で再現性という言葉を使うことがあまり好きではありません。どこか働いている人たが「操り人形」のように見ているような気がして、あまり良い気持になれないからです。

もちろん、今までの飲食店は大きな企業ほど、再現性という言葉でかなり成長してきたことも事実です。たとえば、セントラルキッチンなどもその一つだと思いますし、サービスでいうと接客ロールプレイングのようにシステム化されたものも含まれると思います。

報・連・相(ほうれんそう)のような一定のルールはもちろん必要です。でも、飲食店のなかで再現性はあまり必要ないと思うんです。むしろ僕は、働いている人たちに合わせた「最適化」という言葉のほうがしっくりくる気がしています。

それには、僕自身が再現性が低い人間だと思っていることもあると思っています。誰かに「これやれ」と言われて、その通りに100%やるっていうのはできるけど、どうもやりたくない。こっちの方がいいじゃないかって考えるように、反発心が強いんです。

僕みたいな人もいたとして、働く人を再現性という言葉でくくってしまうと、できないこともやらなきゃいけなくなりますし、パートごとに人を振り分けていかなければいけません。

たとえばこの人はキッチンに、この人はサービスに、この人はお皿洗いに、この人はガルド・マンジェ(前菜担当)、この人はバーテンダーのように。

でもそれは、めちゃくちゃ非効率なことでもあると思うんです。じっさい僕自身がひとりで料理だけでなく、経営からサービスをやってきました。再現性とは反対の存在だったこともあって、一人何役もこなせた方が効率が圧倒的にいいんです。

ですので、スタッフがどの場所でも活躍できれば、たとえばテーブルの担当を決めて動くようなこともなくなる。全員がお客様に対して答えを提供できるようになると思います。これって、すごく理想的なことだと思っています。

さらにスタッフの配置についてだけでなく、これから先の飲食企業は、100業者100業態じゃないですけど、ある程度お客様に対して、その地域に対して、ロケーションに対して、適応していく必要があると思っています。

ものごとは見方によって良くも悪くもなる

働く人たちに最適化していく一つの方法は、「褒めること」だと思っています。「あなたは、ここがいいんだからこれをやった方がいい」、「これは絶対いいじゃん」というようなことです。

今までの日本社会は、「なんでこんなことやったのか」「こんなことをするからお前はダメなんだ」とやったことを否定していくことが多かったと思います。それは、すごく非生産的なことだと僕は思います。それよりも、何かミスや問題が起きたとしても「しょうがないでしょ、終わったことだから、次にやらないように注意しなよ」、これでいいと思うんです。

というのも、ものごとは「いろいろな見方」をすることができます。

先日も、開店前のミーティングで、厨房からお客様を次々にお入れしすぎると、調理がまわらずお客様をお待たせしてしまうというから気を付けてほしいという声があったんです。

サービスのスタッフ一人は、ショックを受けて悲しかったということを後から聞いたんですが、ある時お客様から「この賑やかで活気のある雰囲気が好き」と褒めてもらったことで、自信を取り戻したというんです。

たとえば小さなお店でも。今日は、お客様一組だから全霊込めてサービスできるとモチベーションをあげるのか、寂しいねといってサービスをするのか。お店が満席でスイングしてる店を、かっこいいと思うのか、騒がしいと思うのか。どう見せるかっていう、見せ方でもありますよね。

それをスタッフのみんなに気づかせていくのも大事だと思います。

ブリアンツァでいえば、僕は、とにかく物事をポジティブに考えるタイプなので、それが浸透していくと逆に「ネガティブに考えるのってカッコ悪いじゃん」というようになっていくといいですよね。さらに、お互いで良いところを気づきあっていくことでチームバランスは良くなっていくはずです。

以前も、「諦める」にも2種類あって、僕はポジティブに諦めていきたいということをnoteに書いたように、体調を崩して休むことになったとしても「ゆっくり考えることができてよかったじゃん」や、失敗しても「そのことを人に教えていけばいいよ」とか、ポジティブに考えるんです。

綺麗事聞こえてもいい
心の底から「人は宝物」だと感じている

もう一つ、ブリアンツァグループでは、各店に売り上げノルマのようなものを設けていません。ミスをしても怒らない、ノルマもない。人から見たら「甘やかしている」と思う人もいるかもしれません。

でもミスがあったときに責任をとるのも、売り上げをあげるためにお客様をお呼びすることも、どれも経営者である僕の役目です。だから仮に売り上げノルマを作って達成できなかったのはスタッフのせいではなく、僕のせいだと思うんです。スタッフに責任転嫁したくない。

それに、スタッフに無理強いをするとみんながギスギスしちゃうんですよ。それは本望ではありません。

一方で僕は、「売り上げが上がらなかったら、君たちの給料は上がらないよ、だって実際に稼ぐのは自分たちだからね」ということは言います。そして、売り上げをあげて稼ぐことができれば、それは未来のあなたにとって糧になるからという話もします。

それって商売の基本的なことだと思うんです。そういうことをずっと話続けていると、理解して主体的に働いてくれてる人も多くなっていきます。ブリアンツァグループで長くいてくれているスタッフは、12年もいてくれているし、おそらく過半数は5年以上は働いてくれています。

もちろん、独立志望のスタッフも今までたくさんいて、夢を実現させた人もいます。最近は、SNSで世界中の情報が得られるので、他の店で働いてみたいというスタッフも多いでます。

だからもっと魅力的に、残りたいって思ってもらえるようにならなきゃいけないですし、それは僕がいうことでもなく、一緒に働いているスタッフたちにも、そう口にしてもらいたいと思っています。

だから僕自身がスタッフから学ぶことが多いです。先日は、「ACiD brianza」の児玉(智也)くんが『ゴ・エ・ミヨ』で「期待の若手シェフ賞」を受賞したり、「TERIYAKI」でも「ベストレストラン2023」に選んでいただけたりと、すごく刺激を受けています。

1月に東京・八重洲にオープンした「Asterisco」のシェフ、内野(拓)くんも頑張っていますし、もちろん彼らだけが特別ではなく、すべての店の料理長や店長が、それぞれのお店で頑張ってくれています。

もちろんお客様からも勉強させてもらってます。

もうこれをいうと、綺麗事のように聞こえてしまって、真意を伝わるか不安ですが、僕は心の底から「人は宝物」だと思っています。

こうやってみんなから刺激をもらえるのは、再現性を追い求めていないからだと思っています。個人の最適化を目指し“顔が見える店”だからこそ、僕も刺激を受けるし、お客様にも楽しんでいただけると思っています。

ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸

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