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One more time one more パイン飴



  十人十色の人間がいるように、この世には十人十色の飴が存在する。あんず飴やトローチ、リンゴ飴など昔ながらの飴を始め、昨今ではやれしゅわしゅわキャンディーだの、色が変わる飴などが登場してきた。最寄りのコンビニで色とりどりの飴コーナーを眺めるたび飴市場の拡大と厳しさを同時に痛感せざるを得ない。そんなキャンディー戦国時代においてひときわ異彩を放つのが、パイン株式会社さんが提供するパイン飴である。余計な装飾をそぎ落としパイン飴とだけ明記されたパッケージに、パイナップルの輪切りを模した形状の飴。味も同様にシンプルで、パインの朗らかな甘みとほんの少しばかりの酸味。1つ食べても満足するし、勿論いくつ食べても飽きの来ない味で長年愛されてきた。しかしながら、パイン飴のすごさはその先にある。通常、ブドウやリンゴといった人気フルーツ飴の入れ替わりは激しい。先シーズンまであった飴が、今季からは店から消えていたり、同じ果物の別の飴製品に取って代わられていることが非常に多い。あの瞬間私は消費社会に生きていることを感じ、圧倒的な合理主義が産みだした代替というものの恐ろしさを知るのだ。その点、パイン飴は強い。いつ、いかなる時も飴コーナーの一角に鎮座するその姿は、あまりに神々しく、たまに泣きそうになる。黄色いパッケージから放たれる黄金色の光の柱は店中を照らし、なんなら店の外観を輝かせ、googleアース上でおや、なんか光っているぞと追ってみればその店のパイン飴陳列棚にたどり着く始末である(若干の脚色を含む)。季節が巡り月日が流れても、変わらずそこにいるパイン飴はさながら故郷のようでもある。諸行無常という言葉がある通り、この世に生きる人間は変化せずにはいられない。変化とは我々生物にとって抗えない、運命のようなものである。しかしパイン飴は違う。変わらず棚に並ぶその姿は、変化する社会への反逆者であり、一種の革命家だ。私たちは変化する側だからこそ、不変の象徴パイン飴に恋い焦がれるのかもしれない。

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 私自身、何度辛い時にコンビニに並んであったパイン飴で慰められてきたかわからない。初めて友達ができた日、喧嘩した日、失恋した日、受験で失敗した日、就活で自分を見失った日、本当にうれしいことがあった日。人生の節々において、パイン飴は私の乾いて凍てついた心をその甘さで溶かし慰め寄り添ってくれた。我が人生においてパイン飴は、母であり友人であり、恋人であり、故郷なのだ。そしてそんな日々がこれからもずっと続くと思っていた。けれど先日、辛いことがあったのでパイン飴を買いに最寄りのコンビニに行ってみるとなんとパイン飴がないではないか。私は必死になって探した。棚の隅、向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのに!残念ながら私は山崎まさよしさんではないので見つけられなかったし、そもそも山崎まさよしさんも歌詞にいる君を見つけることができたのかは今でもわからない。身体に降りてきた山崎まさよしさん(仮)をかぶりを振って払いのけ、店員さんに無我夢中で聞いた。パイン飴、パイン飴はありませんか。先々週まではあったはずなんです、ほらこのパッケージの…。そう言ってgoogleで画像検索したパイン飴をスマートフォン越しに見せつける。こまった顔の店員さん。真黒な眼に不信感と少しばかりの恐怖が宿る。たしかに夜中の1時にパイン飴の画像を押し付けてくるお客はちょっと怖いし気持ちが悪かろう。いやしかし、改めてgoogleやスマホがある時代に生まれてよかったと思う。もしgoogleがなかったら食べくさしたパイン飴のごみ袋か、学生時代評価3を頂いた屈指の画力を駆使し本家パイン飴の形状から程遠い化物のようなパイン飴のスケッチをお渡しするところだった。人は何に救われるかわからないと聞くが、どうやら私は時代に助けてもらったらしい。

 「パイン飴は、あります。」どこかで聞いたセリフが背後から響いた。振り向いた先にいたのは、田中と書かれたネームプレートを胸に掲げ、隠し切れないベテランのオーラを纏ったパンチパーマの中年女性だった。たしかに小保方ってそうそうお目にかかれる苗字じゃないよな。そんなことがぼんやりと私の頭によぎる。裏の倉庫で品出しをしていたであろうパンチパーマの女性店員はまくっていた袖をクルクル元の長さに戻しながら流れるように話す。「大袋の飴って最近の若い人?食べないのよね~。ほら、いろいろな種類をたくさん食べたいみたいな。だから今小袋の飴をいっぱい取り入れてて…」小袋がコブクロと聞こえてしまったせいでさっきからミリオンフィルムが頭で鳴り響く。違う。それはポテトチップスの方だ。私が探しているのはパイン飴なんだ。アンジャッシュのコントと伝言ゲームの仕組みを改めて理解したところで、パンチパーマの女性は棚をまさぐり始める。「ほらっ、小袋のパイン飴!これでしょ?」



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君 の 名 は

いや誰だよ!!!!!
全然違うよ!!!!!!!!
なんて私の心の叫びは全て女性店員のパンチパーマに吸収され、その叫びを養分にパンチパーマのカールは更に渦巻きを増した。
これはこれで美味しかったです。美味美味〜。

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