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メタバース 徹底して解るまで 20

Part III

How the Metaverse 
Will Revolutionize Everything

Chapter 12  When Will the Metaverse Arrive?

さてメタバースの時代はいつ来るのか?Ballはイノベーション技術の歴史を遡りその流れでメタバースの登場を見ようとする。いまメタバースのよる破壊的イノベーション前夜だというわけだ。

インベーションはいつくるのかについては、コンピュータ業界大手の中でも意見は分かれる。マイクロソフトのCEOのNadella氏はすでにメタバースはきているという。Facebook のCEOのZuckerberg氏は次の5年から10年のうちにくるという。Epic 社のCEOのSweeneyとNVideaのHuang氏がいつ来るかの特定は避けて、次の2〜30年には来るだろうと述べる。

このようにメタバースはいつ来るのかの予言は難しいようだが、ここで視点をかえて、歴史的なイノベーションの事例を二つ見てみよう。一つは携帯電話。もう一つは電気である。まずは携帯電話のイノベーションの歴史を見てみよう。自動車電話の歴史から初めても良いが、2G回線によってはじまったデジタルの携帯電話の歴史に注目してみよう。1999年にWireless Application Protocol standardが作られWAPブラウザーが作られ、インターネットにつながるBlackBerry 6000、7000が作られた。

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このあとBallはiPhoneの歴史に向かうが、我々は3G回線によって登場したi-modeを覚えているだろう。i-modeはコンテンツの記述にWAPではなくて、webで普及していたHTMLの携帯電話版c-HTMLを採用して、web のコンテンツを作っていた大量の制作者がi-modeに流れ込むことを可能にした。当時僕はNTTdocomoの研究所で3G回線をつかうサービスの研究を手伝っていたのだが、研究グループのボスが僕に「奥出君、国際標準を決める会議にi-modeをもっていったら、すぐに採用された。技術の詳細の検討があるかと思ったらユーザー数が圧倒的だから、というのだ。こんなことってあるのだねえ」という事だった。

i-modeの成功は華々しく、NTT-Docomoで僕たちがやっていた3Gの回線をつかったコミュニケーションサービスが採用されることはなかった。だが、3G回線を使うとスケジュールアプリケーションも地図のナビゲーションも使えるし、何よりも画面の描写が段違いだった。これを採用しない、という決定は当時のi-modeの意思決定のトップによってなされたが、考えた我々は納得いかなかった。が決定は決定。そしてiPhoneが登場する。

i-Modeの失敗、またBlackberryを初めとする2G携帯電話の展開の失敗は、なぜかNOKIAも含めて世界中の携帯電話メーカーがキーボード入力にこだわり、また携帯電話をコンピュータとしては非常にプリミティブなものであるとしか考えないで、開発をして、形のデザイン、たとえば二つ折りにできるとか、にこだわっていた。プログラミング能力が低くても開発できるということを大事とおもっていた。

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そしてi-Phoneの登場である。携帯電話を全部蹴散らした。それはイノベーションの反復的進歩の歴史をなぞるような動きだった。そこで、反復運動的進歩の歴史をBallに従って見てみよう。

電力のイノベーション

19世紀の後半から20世紀の中ばにかけて電力のイノベーションが起こった。決してスムースに社会に普及していったわけではない。一つは産業構造の変化を生み出した。そして、それが次に社会システムのプロセスの変動を引き起こしたのだ。エジソンは電力発電所をマンハッタンとロンドンに1881年に建設した。電球を発明したわずか2年後である。電球への電力の需要は決して多くはなかった。エジソンが発電所をつくった25年後には5%から10%の工場は電力で動いていた。多くは発電所から伝送されたものではなくて、工場の敷地で作られた電力であった。が、突然新しい動きが1910年から20年にかけた起こる。工場に提供される動力の50%に、そして1929年には78%になっていた。

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この変化を引き起こしたのは単純に電気という技術イノベーションが普及したからではない。まず最初に工場内で動力としてつかわれていた蒸気が電気の置き換わった。工場経営者は電気の特性を見て、より電力にふさわしい工場を作るようになった。それまで工場は油にまみれて汚れていて危険で、蒸気を作る仕組みが壊れると工場全体がストップしていた。ところが電気の導入によって工場の環境が安全になり、また工作機械の部品を付け替えることで縫製や切断だけではなくてプレスや溶接にも機械を使うことが出来るようになった。

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工場はより清潔になり、明るく、生命の危険の少ない場所になっていった。また異なった種類の工作機械を同じ敷地で動かすことも出来るようになった。そして製造の工程に最適化して工場システムを作ることが出来るようになった。1700年代に導入された組み立てプロセスが電力によって合理化され、1913年にはフォードが最初の自動車組み立て工場を作った。どこでも電力をつかえるような設備をつくり、製造のプロセスに合わせて最適化された組み立てラインを造ることができたのである。

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フォードの成功をみて他の産業の工場も変貌を始め、電力をつかった製造ラインが「イノベーション」された。こうして大量の自動車が電力をかつようした組み立て工場から生み出されていったのである。

ここでのポイントは大事に電力革命は電力のイノベーションをおこなったエジソンとは関係の無いところで発生したことである。電力によって多くの領域で起こったイノベーションが統合された。

spanning power management

manufacturing hardware

production theory

などにおけるイノベーションが統合された。統合することでアメリカの1920年代 Roaring Twentiesが到来した。労働生産性も資本生産性も伸び、第二次産業革命が勃発したのである。

下記は1929年のフォードの工場から出荷されて並べられている自動車。

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https://canadianautodealer.ca/wp-content/uploads/2021/12/In-1929-the-Art-Deco-designed-Automotive-Building-opened-at-Torontos-Canadian-National-Exhibition-for-auto-shows1.jpg

20年代のパーティの様子

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iPhoneの登場  2007

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さて、今まで見てきたように、電気の普及の歴史は携帯電話の歴史を理解するときに役に立つ。iPhone登場は2007年であるが、最初から携帯端末が備えるべきすべての特徴をもっていた。

タッチスクリーン

アップ・ストア

高速データ通信

インスタント/メッセージ

だが、だが、2008年の2番目のiPhoneが登場するまでiPhoneのプラットフォームは大きくならなかった。2番目が登場して、いきなり300%ののびを示し、その後も成長を続けた。3Gで通信ができて、携帯端末からwebの閲覧が出来て、ネットワークを活用できる多くのアプリケーションがアップストアから販売された。このどちらもAppleのイノベーションではない。チップから3Gにアクセスする方法も規格もAppleが提唱したものではない。多くの開発者はiPhoneのためにアプリケーションをつくり、様々な規格が登場した。ペイメントもすでに確立した方法をつかっていた。CPUもゴリラガラスも他社のものである。2020年に発売されたiPhone12 は5G対応である。だが、Appleはゲームエンジンも高速のGPUも開発していない。だからこそゲームディベロッパーは公正なゲームをつくりアップストアから販売した。アップストアの70%の収益はゲーム会社からである。つまりiPhone 12の完成に至るまでには、システム全体にわたる革新と投資が必要だったが、そのほとんどをAppleは行っていないのである。

 iPhone12 

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タッチスクリーンという新しいハードウェアを導入した初代iPhoneはユーザーにこのインターフェイスの使い方を教育する方法をいろいろ工夫した。iPhone12では、物理的なホームボタンをスクリーンのなかにいれてソフトウェアかしてタッチスクリーンのインターフェイスを与えた。そして、この物理的なインターフェイスを無くして生み出した空間にセンサーやより進んだコンピュータ部品を埋め込んだ。多くのソフトウェア開発者達はこうした新しい機能を使った複雑なソフトウェアを開発するようになった。ホームボタンが無くなり、ユーザーはいままでなく自由に二本指でiPhoneを操作できるようになったのである。

A Critical Mass of Working Pieces

さて、二つの破壊的イノベーションの歴史を簡単に見てきたが、どれほどの部品が集まるとメタバースイノベーション爆発の臨界点(critical mass)に到達するのであろうか。いまバーチャルワールドといってもほとんどがゲームの世界だ。現在の社会にそれほど大きな影響を与えていない。

しかしながら、何かが起きている。多くのCEOはメタバースが急成長するのはまだ先だという。だが必要な部品はそろいつつある。急速に統合されつつある。

部品1:高精細のタッチスクリーンを備えた安価なモバイルコンピュータが12歳以上の人口の3分の2に普及しようとしている。

部品2:この安価なモバイルコンピュータは、CPUとGPUを備えた強力なレンダリングエンジン付きで、複数のアバターとその環境の動きをリアルタイムで描写することが出来る。

部品3:高速の4Gモバイルチップセットはユーザーがどこにいても部品2の環境にアクセス出来るようになる。

部品4:ブロックチェーンを使ったプログラムがメタバースのみならず様々な分散環境でユーザーとコンピュータを結びつけて、より安全で健全な活動を保証する

部品5:クロスプラットフォームゲーミングができる仕組みが登場する。

ゲームでのクロスプレイの仕組みとは、あるゲームで購入したバーチャルグッズや使用した暗号通貨がほかのゲームでの使えることである。そうしたデータにくわえて、ゲームでの履歴も他のゲーム環境に持って行ける。20年後には可能になるなどと言われているが、2018年にソニーのPlaystation内では可能になっている。

クロスプラットフォームは次の理由で重要である。

理由1:メタバースはひとつではなく、複数のメタバースを訪問することでユーザーの経験が拡大していくところが大切である。そうでなければ閉じたひとつの世界の経験しか獲得できない。

理由2:クロスプラットフォームでお互いのメタバースがつながり、ユーザーが他のユーザーにつながる頻度が高まれば高まるほどメタバースワールドは豊かになっていく。

理由3: ゲームやアバターや環境をつくる費用はゲーム会社においては前もって決められている。しかしこうした複数のメタバース世界がつながることで、ユーザーが経験できる環境が豊かになり、そこで使うお金も増え、結果としてゲームディベロッパーは新しい開発を行うことが出来るようになる。

理由4:文化が変わる。Fortniteは2017年にゲームを初めて、2021年までに200億ドル売り上げたという。その収益のほとんどが下記からである。

デジタルアバター

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バックパック

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ダンス(emotes)

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だった。今やEpicは世界でも有数のファッションの販売を誇る

Dolce and Gabbana

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Balenciaga

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The Next Drivers of Growth


さて、残されたメタバースが破壊的イノベーションになる理由はなにか? それは政府によるAppleやGoogleに対する勧告である。オペレーションシステムとソフトウェア販売ストアと支払いシステムはそれぞれ分離されて別の組織が扱うものになっていく。ARやVRのヘッドセットもスマートフォン端末から切り離され、どこでも使えるようになる。最終的には全部分離分割されていく。だが、すぐに政府の勧告によって有効になるのは次の三つである。

理由1:技術的な要素が固有のメタバースから切り離されていく。

インターネットサービスが向上

コンピューティングパワーが向上

ゲームエンジンパワーが向上:使いやすく、高速で、安価になる

インターオペラビリティが向上

ペイメントシステムが向上

理由2 世代交代が進む

iPad nativeがRobloxを大きくした。75%の子供がRobloxプラットフォームで遊んでいる。これから生まれる子供達は皆gamerである。

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理由3: i-Pad ネイティブのアマチュアゲーム世代がプロフェッショナルな開発者やビジネスリーダーになっていく。

以上である。Ballがメタバースによる大きなイノベーションが起こると予言している。それも未来の出来事ではなくて、いま動いているとするのだ。確かにゲームの進化は目を見張る。NVideaが高度な能力を必要とする医療機器などを市場として開発をおこなっていて、ゲーム産業へのGPU供給という巨大な市場を得ることはできなかったし、その利益を投資して技術開発を急激なスピードで行うことは出来なかっただろう。

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上の写真は3Dコンピューティングの黎明期1990年代に隆盛をきわめたシリコングラフィックスという会社のコンピュータである。当時僕はVRの実験をしていて、三カ所でおおきな作品をつくり、いったい何台購入したことか。一億円を超える機械を4台とか並べて使って事もある。こうした研究はそれなりの予算が付くので、研究が認められると購入できる。だが、こうした巨大予算を獲得する機会は限られている。売れる台数も限られる

Nvideaはこの時代にPCにつけるグラフィックボードの会社として出発して、ゲームマシンで地位を築いて、大量に販売してその利益を投資していまのグラフィックコンピュータのGPUの開発に成功した。この連載で前に説明したように、ゲームの市場がなければいまのような超高性能で安価なコンピュータは存在しないのである。

こうして登場したゲームマシンを前提にしてグラフィックスエンジンが登場して、あっというまにメタバースのリアルタイム三次元表示が当たり前のことになた。3Gから4Gそして5Gと無線のスピードは進化して、またネット枠の技術も進歩して恐ろしいほど能力は上がった。また光ケーブルをつかうことで通信のコストも激変した。表示のディスプレイも高精細で安価になっていった。ブロックチェーンの登場で、しっかりとプログラムをすれば、メタバース世界でのコミュニケーションの安全も守ることが出来る。そしてなによりも、こうした環境が当然と感じる、iPadで育った世代がメタバースを構築するエンジニアになる年になってきている。これだけの条件がそろって、メタバースイノベーションが来ないわけはない、とBallは述べるのである。

では、メタバースが登場するとして、そこでどのようなビジネスがうまれてくるのか。次に第13章 メタービジネスについて議論したい。










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