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「本当の自分」とは -双極性障害と向き合って-


「本当の自分とは何か?」

就活をはじめたての頃、何度も何度もこの問いと向き合った。が、自分にはどこか違和感があった。性格診断を受けても、「そんなのは時と場合で全然変わるやんけ」と思う事が多かった。自己分析という名で色々な角度・フレームワークで内省をしてみたが、自分という人間を本当に正しく捉えようと思えば思うほど、短時間で人に説明できるようにシンプルに表現することはとても難しいように感じた。

特に友人に就活の相談をしていて、「本当のだんごむしは○○が苦手だから、××は向いていないのでは?」と勝手に決めつけられた時、「お前に俺の何がわかるねん」とひどくイラついた。

「本当の自分とは何か?」

そんな問いと向き合い続けることで、就活の色々なストレスも相まって、鬱状態になった。
その時から自分の双極性障害の傾向は始まった。

ある時、否が応でもこの問と向き合い続ける中で、大きな変化があった。ある角度から自分を、自分の人生を捉えた時、それはまるで一本のストーリーが繋がったように、本当の自分というものを言語化出来た。(今振り返ると、双極性障害の軽そう状態になっていたために、「それが本当の自分なんだ!!」と思い込みやすかっただけのように思うけど。)

本当の自分を見つけてからは、自分は見違えるほど変わった。自信に満ち溢れ、恥じることもなくなり、非常に行動的になった。就活の選考も順調に進み、今の会社の内定を得た。

ただ、もちろん双極性障害の傾向で軽そう状態になっていただけなので、そんな自分は長くは続かず、再び鬱になった。鬱になると、驚くほど自分自身が変わってしまった。全くもって自信はなく、人と関わることが怖く、内に閉じこもるようになった。

「きっと本当の自分は、少し前のエネルギッシュな自分だ、、、今の自分は本当の自分ではない、、、」

そう思いこむ度に、とはいえそんな理想的な過去の自分には戻れない今の自分が嫌になり、鬱状態が長引いた。自分の中に、明確に違う2人の自分が生まれ、「本当の自分」が再びわからなくなった。


双極性障害に悩んでいるさなか、先輩にある本を薦められた。平野啓一郎の「私とは何か」という一冊だ。

平野さんは小説家として物語を書く中で、「自己」という概念と向き合い続けて、「分人主義」という考え方を見出したという。元々、個人(individual)とは、西洋文化から持ち込まれた概念で、人間は一人一人その個人という単位からそれ以上分けることは出来ないと考える。それは各個人に対して、確固たるアイデンティティを求め、揺るぎない「本当の自分」を求める。

一方、分人主義では、一人一人の人間についても、まだ分割することが可能で、一人一人の中に色々な分人があると考える。(例えば、親に見せる真面目な自分、地元の友達に見せる地味な自分、会社の同僚に見せる強気な自分はそれぞれ異なる自分と考える)。その上で、全ての分人を総じて本当の自分と捉え、その分人の比率が個性だと捉えるという。そして、分人とは相対する相手によってその色は変わるため、自分が好きな分人の比率は、関わる人によって調整することも出来るという。(詳しくは本書にて)
分人主義は、個人主義とは別の、人と人との和や空気を大事にする、極めて日本らしい考え方である。


自分はこの本を読んで、「本当の自分」という概念に対して、はじめて腹落ちする感覚を得た。自分自身、昔から日本人的で色々な人と関係性を作り、その中で少しずつ見せる自分が違う感覚があった。何より、今まさに自分の中には明確に2人の分人が存在していた。

「本当の自分とは?」という呪いのような問いに長く苦しめられていたが、ようやく自分の中で整理が出来た。エネルギッシュで自信に満ち溢れた自分も、内気で消極的な自分も、全部自分だ。全部ひっくるめて、本当の自分なんだ、と。

思うに、人間は自分の中で色々な矛盾を抱えて生きているように思う。そんな矛盾に対して、確固たるアイデンティティを定めて、矛盾を消すように一貫してまっすぐに生きることも素晴らしい事だとは思う。ただ、自分は分人主義という考えに沿って、矛盾した考え・気持ちも全部ひっくるめて自分なんだと、時に苦しくも、柔らかく生きることもありなのでは、と思う。

また、自分は分人主義を受け入れて、あらゆる自分の感情や考え方を自己否定せずに受容するようになった結果、自分の中に多様性が出来た。だからこそ、人の話を聞く時、例えその人がどんな考え方や感情をぶつけてこようと、それと似たような分人を自分の中から出すことで、少し受け入れる余裕が出来た。

それこそ、少し前の軽そう状態だった頃の自分は確固たる「本当の自分」があったからこそ、強く意見を発信し行動できる一方で、その強さ故に人と衝突することも多かった。

一方で分人主義を受け入れてからの自分は、自分自身が画一的でないからこそ、他人と関わる際に、緩やかな関係性が生まれやすくなったように感じる。(もちろん、全てうまくいっている訳ではないけど)

キャリアを考える上で、必ず向き合わないといけない問い、

「本当の自分とは何か?」

その問いに向き合う前に、そもそも「自分」という定義に対して、自分なりの考えを整理できると、少し生きやすくなるかもしれない。

以上、キャリア選択の際に「本当の自分とは?」と悩む人に向けた、僕なりのメッセージ?でした。長文失礼しました。




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