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カレーなる浅香唯【短編小説】

黄昏。
漠然とした喪失感。

「……」

やる気が出なくて焦っている。
そういう気持ちは心地良くない。
焦らなくていい。
休んだほうがいい。

「……カレーかな」


玉ねぎ、トマト缶、鶏肉。
赤缶カレー粉、ヨーグルト、蜂蜜、ブイヨン、コンソメ、ウスターソース、バター。
を用意する。

「考えるな」
と、小さく呟く。

テレビをつけ、YouTubeを見られるようにして、浅香唯のライブを流す。

「……」
考えるな、と、心で思う。

玉ねぎを切る。
ざっくりと半分にして、端からトントントン。

鍋を火にかけバターを一欠片入れて溶けてきたら、玉ねぎを入れる。
その間に鶏肉をサイコロ状に切って、鍋に入れる。ヨーグルトを、サジで3、4杯。
で、炒める。

ジュワージュッジュッ。

浅香唯の歌声がする。
ふと、画面に目線を移す。
「……」

鍋にカットトマトを1缶入れて、ブイヨンと、コンソメを一つずつ。
ウスターソースをグルッと垂らしながら1回し、蜂蜜を2回し。
かき混ぜて、煮込む。

画面の浅香唯を眺める。
浅香唯を眺めるときは、ただ感じることが大事。
声、表情、動き、
「……マンデー寝坊してぇ」
脳内に浅香唯を反射させる。


コトコト、グツグツしてきたら、赤缶のカレーの粉を3サジぐらい入れて、煮込む。

「……さあ、みんなボーイフレンドつくろう」
ふと、口ずさんでる。
浅香唯の反射に、身を委ねる。


カレーが出来上がる。
頭が真っ白なとき、こればかり作ってしまう。
ご飯とかなしで、そのまま食べる。

「……」
画面の浅香唯を眺めながらカレーを食べる。
なにも考えるな。感じるんだ。

「……」

楽しいなぁ。

カレーを何度もお代りする。

美味いなあ。

浅香唯とカレーは元気になる。
すぐ鍋全部食べ終わってしまう。


ふと涙をこぼし、左手の中指で拭う。
「……」
僕は画面の浅香唯を眺める。




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