ろくでもない世界で、ろくでもなさを嘆く、ろくでもなさについて。
口が悪いばあさん。
「ああいうものはろくでもないんだ」
と、よく批判している。
その場では目立つし、そこそこ鋭さがあるような発言に聞こえているということで、一目置かれたりするのだけれど、口が悪いので、どんどん孤独になっていった。
旦那とは離婚、子供は独立、年金暮らし。
「ろくでもないものに、ろくでもない媚びを売り、ろくでもない時間を費やし、ろくでもない賃金をもらって、ろくでもない人間関係の中で、ろくでもない愛想笑いを浮かべ、ろくでもないお世辞を言って、ろくでもない死に方していくやつらに、あたしは一ミリも興味ないのさ」
「では、ろくでもなくないものとは、どういうものなのですか?」
と、無鉄砲な若者が聞いた。
口が悪いばあさんは、一瞬、考えた後、
「そんなものはないね」
と、言った。
「じゃあ、ろくでもないものしかないじゃないですか」
「ああ、世界のすべてはろくでもないのさ」
「では、ろくでもないものの世界で、ろくでもないと言い続ける、ろくでもなさとはなんなのでしょう?」
「それはね、あたい自身が、ろくでもないということを知っているということさ。つまり、あたいはあたいのろくでもなさを嘆きつつ、そのろくでもなさに一ミリも興味がわかない。つまり、ろくでもないあたしはろくでもない世界において、ろくでもない、自分に興味がわかないというろくでもなさというわけさ」
「自分に絶望し、自分を嘆いている」
無鉄砲な若者がそう言うと、口の悪いばあさんは、自嘲し、
「ろくでもない」
と言った。
無鉄砲な若者は、スマホを取り出すと、打ち込み系のリズムを流し始めた。
その曲のリズムに合わせ、クネクネと動き始める。
口が悪いばあさんは、それを見ながら、
「ろくでもないね」と、呟いた。
無鉄砲な若者は、それでもクネクネを続け、口の悪いばあさんも、クネろと促す。
婆さんは、口は悪いが、身体は正直だった。
二人、リズムに合わせ、クネクネと踊る。
ろくでもない踊りではあった。
けど、なんか楽しい。
「まったく、ろくでもないね……」
と、婆さんはクネクネしながら、静かな涙を流した。
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