月はずっと見ている。
「いつかきっと辿り着くなんていう生き方をしていたら、そのいつかってのに辿り着かないまま、変な息苦しさだけ感じながら生きていかなければならないのさ」
と、素焼きアーモンドの袋を片手に、たまにカリカリと食べながらいかにも金持ち風情な爺さんが言った。あごひげが長い。
僕は、ショッピングモールのたこ焼き売り場で、たこ焼きを焼いていた。
「焼けるまで、少々お待ちください」
の、少々の間、爺さんは素焼きアーモンドを食べながら待つ。
「いつかってのばかり見ていると、そのうち「いつか」が無くなってしまうことが怖くなるからさ。空っぽになっちまうんじゃないかってさ」
爺さんは一方的にしゃべり続ける。
「いつかきっとって、裸の言葉隠してるのさ。だから、そろそろ、分からなきゃいけない。他人がいることが、自分を輝かせていることを」
僕は黙々とたこ焼きを焼く。
「あんたがたこ焼きを焼く。それで私がたこ焼きを美味しく食べられるっていう理屈さ」
爺さんはマスクをすると、マスクからあごひげが生えているように見えて、汚らしかった。マスク時代のあごひげ問題。と僕は思った。
「自由になるってことは、我慢をすることじゃない。そこにある、光を感じ、その光を信じられる心を持てれば、胸を開ける」
「お待たせしました」
と、僕がたこ焼きを渡す。
爺さんは、受け取り、
「また、いつかきっと来るから」
と、笑った。
「ありがとうございました」
と、僕は頷いた。
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