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「一生忘れない」を思い出せない。


「このことは一生忘れない」
と、思ったことは、覚えている。

たぶん、何度も、そんなようなことは思った。
けれど、それがいったい何だったのか、さっきから考えているのだけれど、まったく思い出せない。

日常生活をしていて、必要な知識、それに関連づいた思い出っていうのは、覚えているのだけれど、今思い出せていない「一生忘れない」と、思ったことは、たぶん、日常生活の中で、「今すぐ必要なこと」ではないのだろう。

別に、それが悪いことだとは思わない。
ただ、その時は確かに「感動」していたのだろうし、忘れてはいけないような、「切実さ」が存在していたのだろう。

例えば「汚い大人」になりたくない。
なんて、思った出来事が子供の頃にあったのかもしれない。
それは「子供」を強いられている「立場」からの視点での誓いであって、大人になってしまった状態での「汚い大人」の言い分を聞いた時に、単純に、責めてばかりもいられない。

対立は基本的には情報不足から起こりうるものなのだ。

「つまんないこと言ってんね」
と、暗闇から声がした。
「バカみたい?」
と、僕が訊き返すと、
「そうね、バカね」
と返事があった。

「そう簡単に割り切れるくらい、僕も情報を排除したいよ」
「何言ってんの。とっとと好きにすればいいのに」
と、暗闇からの声は言った。

ふむ。
「だけどさ、好きにすると、孤独にならない?」
「顔色ばかりうかがっていると、空っぽになるのよ」
と、暗闇からの声が言った。

「君は親切だね」
「どういたしまして」

僕は暗闇を見つめながら、、寂しさに割り切りがつけられないことを理解して、溜息を吐いた。

一生忘れない。はいつか思い出すだろう。
世界はいつも工事中で、完成は誰も見届けることは出来ない。



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