見出し画像

誕生日な話。

2022
夜11時、毎朝5時起きなので常に10時半には夢を見ているはずの夫が、リビングのソファーで何かと戦っていた。ゴルゴみたいな眉間で、キムタクのモノマネかっていうぐらい不自然に二重になって。

「どうしたの?」と聞く私に、
「1番におめでとうを言わなくちゃ」と眉間の皺を一層深くした。

そういうふうに私の誕生日が始まった。
(結局夫は何度も何度もあやまりながら、11時15分には眠っていた)


 誕生日は特別だ。
 誕生日は王様だ。
 誕生日は絶対だ。 

という絶対の教えが私にはある。だからか夫はその教えを遵守しようとしてくれているのだと思う。「おめでとうを言いたいから」じゃなくて、「言わなくちゃ」だったし。

誕生日は特別だと私は思っているので、その時々の社会生活に対応可能な限り、自分を甘やかす事にしている。
誕生日だから、今日は仕事を休もう。とか。誕生日だから、少し多めに眠ろう。とか。誕生日だから、特別な昼食を取ろう。とか。誕生日だから、今日は何もしないぞ。とか。誕生日だから、いつもより多めのハグが必要だ。とか。

今年の私も、朝起きた瞬間に仕事に行かないことを決めた。眠る前には溜まってる仕事をすこし片付けに行っても良いかなと思っていたのに。前日の私には[誕生日の人]という万能感がなかった。

誕生日だから昼食はペヤングだ。と思った。
(胃が弱いのでペヤングは半年に一回のご褒美だ) 
誕生日だから、ご近所のスタバに行こう、(昨日も行っている)。
誕生日だから、昨日買おうか悩んだスタバのマグを買ってしまおう。
誕生日だから、夕食だって作んないんだ!と思った。

 誕生日だから、誕生日だから、誕生日だから。
 誕生日に許された魔法。

この魔法はけれど容易に呪い(または怨嗟)になりえる。

 誕生日なのに、誕生日なのに、誕生日なのに。

誕生日なのに、賞味期限がよりにもよって私の誕生日までの菓子パンが家に残されていた。故にペヤングを食べられなかった。(私が買った菓子パン、美味しかったけれど)

誕生日なのに、今日は誰とも喋っていないな。
誕生日なのに、前日に残ったスペアリブの煮込みが気になりはじめた。夕飯にちゃちゃっと炒飯を作ろう。
誕生日なのに、結局ペヤング食べれなかったな。
誕生日なのに、残り物か…。
誕生日なのに、誕生日なのに、


夜8時半、いつもより1時間以上も早く夫が会社から帰ってきた。
「誕生日なのに、遅くてごめんね」と言いながら。
残り物のチャーハンをたべながら、いつも無口な夫はいつもより少しだけ話をしてくれた。他愛無い、今日どうしてた話。

食後、いつもは疲れて口もきかずにくたりとソファーに沈んでいる夫は、いつもと体勢はそのままに、iPadでなにかを調べている。

「これなんかどうかな?」夫が見せてくれた画面には、Apple Watchが映っていた。誕生日プレゼントらしい。

本当にApple Watchを買ってくれるか、買ってもらうのかはまだわからない。
夫のこれは、たぶん半分は「誕生日なのに」と私が思わない為のパフォーマンスだろう。

今度アップルストアに行こうと言い合いながら、エルメスのApple Watchのページをワイワイふたりで眺めた。(倍の値段をしていた、こっちがいーい?って聞かれた。いいと言ったら買ってくれるのか?誕生日マジック怖い。)
そして私の誕生日は(ペヤングは食べられないまま)素敵に終わった。


「昨日誕生日だった私になんて冷たいんだ!」と、夫につげるのは、その次の日のこと。日々は続くのです。

プレゼントにスキをください。もしくは愛を。


後日談はこちら

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,651件

#眠れない夜に

69,462件

最後までありがとうございます☺︎ 「スキ」を押したらランダムで昔描いた落書き(想像込み)が出ます。