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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第6話「京は新選組に任せる」

伊東甲子太郎が高台寺の屯所に帰った後、河原町通りに面している本屋「菊屋」の二階の一部屋に陣取ったのは、斎藤一、藤堂平助、服部武雄の三人。

いずれも、新選組から分かれた高台寺の御陵衛士の面々。ここは峯吉の実家であり、ここからは土佐藩邸の正門、福岡邸、近江屋など土佐藩に出入りしている者の動きが手に取るようにわかる。それに加えて 、峯吉が近江屋の様子を逐一報告してくれる。

三日ほど前に、坂本龍馬がやって来て、酢屋に寄らずに近江屋に潜伏している。

峯吉が報告してきた。先程、伊東が実際に中に入って面談し、本人であることを確認した。

以前であれば坂本龍馬は不逞浪人であり、新選組の取り締まりの対象として踏み込むのだが、土佐藩士の身分に戻っている。今では、むしろ保護しないといけない立場になっている。

実は、土佐の後藤象二郎と新選組の近藤勇は水面下でつながっている。

近々、大政が奉還される。そうなれば、幕府中心の政治ではなしに諸藩の主だった藩主の話し合いで物事を決め、天子のご承認を得るという形になる。

幕府も最大ではあるが、諸藩の一つに過ぎない。そして、徳川慶喜も主だった諸侯の単なる一人になる。当然、本来統治している江戸に戻らなければならない。その際には、京に滞在している幕臣も引き連れてゆく。そうなれば、京都所司代である会津藩も在京している意味がなくなるのである。

京の治安を守るものが、誰もいなくなる。

その空白を新選組で埋めよというのである。

表向きには会津藩お預かりの身分から幕臣に取り立てたことになっているが、近藤勇の上に上部組織を置いていない。何時でも、新選組自体を切り離せるようにした。

これなら、従来の見廻組は徳川慶喜と一緒に江戸へ戻るが、新選組は京へ残せる。幕府も、池田屋事件などで勤皇派から目の敵にされている新選組は余計なお荷物なのである。ましてや、江戸に連れて帰ると面倒なことになるのは目に見えている。

新政府としても、新選組を大政奉還後の混乱期の在京の治安部隊として手元に置きたいはずだと踏んでいる。

 

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