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龍馬が月夜に翔んだ

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#読書の秋2022

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第16話「敵に背を向かすな」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第16話「敵に背を向かすな」

「分かった。菊屋に戻る」

新選組大石鍬次郎隊に配ったおにぎりが、一人ずつ順番に食べ始め、最後になった廣瀬という隊士が、震える手で懐からおにぎりを出し、不器用な手つきで竹皮をむいて、口に運ばれるのを確認して、斎藤一は河原町通りに出た。

いつものように大手を振って歩くと怪しまれる。懐手をして、屋敷を抜け出して遊郭にしけこもうとしている藩士を装った。

さりげなく中岡慎太郎が潜む福岡邸の前を通り過ぎ

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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第15話「慎太郎を狙う狼たち」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第15話「慎太郎を狙う狼たち」

辺りが薄墨を塗り重ねるように暗くなってきた。
闇夜の漆黒と夕暮れの灰色の境がくっきりとしてきた。
黒はより深みを増した。
そして灰色には、少しずつ黄金色が混ざるようになってきた。
月の光だ。
月が出ているのだ。
漆黒は悪事を包み隠してくれる。
しかし、冷たい月の光はそれを許してくれない。

「遅くなってすまん。山崎丞さんからの差し入れだ」

齊藤一は、大石隊の隊士の柄と鞘を握った手を離さず緊張感を

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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第14話「不吉な予感」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第14話「不吉な予感」

御陵衛士の屯所がある高台寺月真院に戻った伊藤甲子太郎は、すぐさま残っている隊士に状況を伝えた。

土佐藩の置かれている立場、薩摩藩の考えていることなど、包み隠さず話をした。

そして、一段落したら高台寺隊を解散し、新選組本隊に戻れるように近藤勇に話をつけると約束した。

早速、毛内有之介が河原町の菊屋で監視をしている隊士に、それらを伝える役に選ばれた。毛内は伊東が江戸から新選組に加わる時に、一緒に

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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第13話「踊る!土方歳三」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第13話「踊る!土方歳三」

齊藤一は、不動堂村の新選組の屯所に着いた。

未だに木の香りが漂う大名御殿と見間違えるほどの立派な造り。齊藤はこの屯所に駐在したことはなかった。

この屯所に移る前の西本願寺に間借りしている時に、高台寺に移った。だから、馴染みはなかった。

何か余所余所しい感じがする。

隊士の中にも、新しく募集された顔を知らない者も、混じっている。

「局長は、おられるか。急用だ。すぐに会いたい」

「不在です

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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第12話「無用なものは切り捨てよ」

時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第12話「無用なものは切り捨てよ」

「坂本さんが、帰ってきているのは知っていました。あの人は薩摩に来た時に、わしの屋敷に泊まってもらった。お龍さんも、一緒だった。あの人は面白い人だ。一晩中、話をしてくれた。これからの世は、刀や大砲ではなしにそろばんと船の時代になるとしきりに言っていた」

「その坂本先生に、今日近江屋で会いました」

「そうかですか、坂本さんにはそこらにいるよりも、むしろ薩摩藩邸に入るように勧めたのだが、まだそこらへ

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