見出し画像

鹿児島開催・民間主催の協力隊受入研修会で議論された隊員の士気を高めるための制度づくりの重要性

2018年7月4日にNPO法人頴娃おこそ会の主催にて、地域おこし協力隊受入行政地域側の研修会を開催しました。タイトルは「隊員の士気を高めるための受け入れ制度づくり ~役所外勤務・民間関与型の隊員受入の仕組みを考える~」という、まあけっこうマニアックな内容です。

民間団体である頴娃おこそ会は南九州市役所と連携して、協力隊の受け入れを担っています。とは言え行政制度である協力隊の、それも行政を主とした受入側の体制づくりに関する研修会を民間団体が主催することはかなり異例だと思います。

サブタイトルにもある通り、テーマは「隊員の士気を高める」ために「協力隊員は役場の外に出そう」「任期終了後のなりわいづくりに寄り沿った受け入れ制度をつくろう」ということ。なので一見マニアックですが、目指していることは極めて本質的なんじゃないかなと主催者は考えました。

このような研修会を主催するに至る想いとか背景は、下記の記事でも
書いています。興味ある方はぜひご一読下さい。


県や新聞の応援を受け、気付けば大きな会合に!

このたび、南九州市が新たな協力隊員の募集を行うことなり、頴娃おこそ会としても制度づくりに関わることとなりました。その際、日頃から付き合いのある周辺自治体の方々とこの協議の過程を共有してはどうか、協力隊受け入れのあり方についての意見交換の場が持てればいいなあと軽いノリで考えました。
ところが、この話を鹿児島県庁で協力隊を管轄する地域政策課の若き女性担当者の杉元さんにしたところ「応援します!」「私も参加します!」と、なんともしなやかに対応してくれて、こんな民間主催の研修会の開催案内を県内各市町村にまるで行政主催の正規の研修会かのように送付してくれたのでした。ありがたいなあ。
そして、南日本新聞の北村指宿支局長も事前紹介記事を書いて応援してくれたりで、なにやら大きなことになってきたのです。

画像1


お寺を会場に、双方向・交流型でソフトな進行

画像2

会場は、これまたこうしたまちづくり活動をいつも応援頂いている鹿児島市内の妙行寺の井上住職のはからいでお寺を提供してもらいました。
そして当日は行政職員を主に、そして隊員や地域の方々なども含め、なんと70名近い多様な方々が集まるという大変な会合となり、主催者が一番ビックリという状態となりました。いやはや…。なんとも…。

〇こんな日本の外れの鹿児島県での開催なのに、東京、長野、奈良、熊本など県外からも参加してくれたり…
〇協力隊員が行政職員を、そして協力隊の受け入れを希望する民間側の方もまた行政職員を説得して連れだってやって来たり…
〇ある隊員はあまりに熱く行政職員を説得して同行することになり、「賽は投げられた」なんてメッセージを送ってきたり…
と、なんとまあ不思議な熱気が渦巻く会合でした。

でもお寺の座敷を使って、なるべく双方向型、交流型でゆるさと笑いを採り入れた進行を心掛けました。なので参加者の皆さんも、リラックスして本音で語り合える場となっていたのではないかと思うところです。

この辺りの会の様子は、当日参加してくれた福島かざりさんのブログが臨場感いっぱいで伝えてくれていますので、ぜひぜひお目通し下さい。当研修会の公式ブログと言っても良いレベルの内容です。こういうサポート、本当にありがたいです!


身近な事例を取り上げ、行政職員の言葉で語ってもらう

この研修会で心掛けたのは、全国の事例紹介とか、理論的なことではなく、ごくごく鹿児島の身近な現場の事例を取り上げて、当事者の口から語ってもらうということでした。
当事者とは言っても、受入制度づくりを考えるという開催趣旨から、隊員本人の活動紹介や成果はほどほどに留め、行政職員を中心に制度づくりの体験や内部事情について語ってもらいました。行政制度にまで踏み込んだ研修会なので、当事者である行政職員の方に対しては、行政職員の言葉で伝える…これが一番だと思います。

そして研修会の進行は…


当日は次の3つの事例を取り上げることにしました。
① NPO派遣型:南九州市&頴娃おこそ会の事例
② 公民館派遣型:日置市&美山地区公民館の事例
③ 市役所雇用型:南九州市の知覧武家屋敷の事例

①と②は地域の盛り上がりや民間側の全面的な協力を前提とし、こうした流れを行政がうまく汲み取ったやや特殊な事例と言えるかもしれません。
これに対して③は市役所が直接雇用しつつも、経費の適用や隊員のサポートに必要な範囲で民間を関与させたもので、うまく応用すればどこの市町村でも実現可能な制度ではないかと思います。

では、以下でそれぞれの事例をみていきます。

その1 NPO派遣型:南九州市&頴娃おこそ会の事例

画像3

まずはNPO法人頴娃おこそ会が南九州市と連携して行った事例です。
南九州市は頴娃おこそ会への派遣というかたちで初の協力隊受け入れを行いましたが、この場ではその前に頴娃おこそ会が鹿児島県と取り組んだ事業にまで遡りつつ説明しました。頴娃おこそ会の活動を良く理解してくれていた県の出先機関である南薩振興局の担当職員の方が、頴娃おこそ会を支援し育てることを意識して、約1年近くに渡り私たちとひざ詰めで協議を続け、2015年度に立ち上がった観光まちづくり人材の受け入れ事業がそれでした。

かなり自由度の高い制度だったので、頴娃おこそ会に着任した若手女性には自由闊達にこの地での観光なりわいづくりに取り組んでもらった結果、移住後1年で民宿を開業するなど、大きな成果を上げました。

移住者女性の福澤知香さんが立ち上げた宿のサイト


いわば協力隊導入の実証実験とも言えるこの事業をモデルとして、協力隊の受け入れ要望を頴娃おこそ会から南九州市に提案、この意向をくみ取った市はこれまた半年以上を掛けて、協力隊導入の実務と制度づくりを頴娃おこそ会に業務委託するという手法で、協働して研修会を開いたり視察に出向いたりしつつ、初の協力隊導入を腰を据えて進めました。この結果、隊員をおこそ会へ派遣する、活動費をおこそ会に一括して支給するというかたちで制度が整い、2016年度に士気の高い2名の隊員が着任し、創業をテーマに積極的な活動を展開するに至りました。

画像4

この日の進行役を担った頴娃おこそ会派遣の隊員である蔵元さんは、頴娃おこそ会から派生する新会社をこの1週間前に設立したばかりで、着任から1年半の自身が社長に就任したと語りました。
また南九州市の担当者の上野さんは
「協力隊員は自分の未来を自分で創っていく方々。私たち行政職員には出来ないことをしてくれていて、すごいねと感謝している」
「自分は特別なことはしていないが、隊員の任期終了後のなりわいづくりに自身がどう関わっていけるか、このためになるべく隊員と地域との接点がつくれるように努めている」と語っていました。
この言葉に、南九州市と頴娃おこそ会が目指す協力隊の姿が象徴されていたように思います。

その2 公民館派遣型:日置市&美山地区公民館の事例

画像5

2つめは、地区公民館派遣型という制度をつくった日置市役所の有村さんの発表です。当時は地域づくり課の参事という役職で、比較的自由に各地の地域づくりの事例をみてまわる研究員のような立場で、当人曰く「フリーター」みたいなものだったと。このまま地域づくりの専門家として役所人生を全うするかと思いきや、その後転勤となり、ご当人の言葉を借りれば「こんな制度をつくったから異動になった」と、どこまでもユーモアいっぱいの方でした。

でも左遷ではなくご栄転されて、現在は福祉課長の職に。なので、協力隊の研修には公務で参加は出来ないと、現役の課長さんが休暇を取ってこの研修に駆け付けてくれたという、なんとも心温まる話です。

そしてそんな有村さんが満を持して、県や議会との調整など行政として外してはいけないことには十分配慮しつつ、でも地域コミュニティの中に「新たな風を吹き込む、小金を稼ぐ風土を入れ込む」というやや尖がったことを実現するために生み出したのがこの地区公民館派遣型の協力隊受け入れ制度であり、そこに引き寄せられ着任したのが吉村さんでした。

画像6

吉村さんは全国協力隊サミットでも登壇するなどもはや全国区の知名度で、もともとポテンシャルのあった美山というエリアで地域と一体となった観光地づくり活動に精力的に取り組んでいます。このことを語り出せば何時間でも話せる方なのですが、そうした成果にはほとんど触れず、自身を取り巻く制度について語ってもらうという、マニアックな発表に徹してもらいました。

ポイントは、市役所内勤務を回避するために地区公民館派遣の体制とした、当初は市から地区公民館に活動費を拠出することで活動の自由度を高めた、任期途中からは地域で会社設立の準備に入ったことから市は地区公民館に人件費まで含めて拠出し、地区公民館と吉村さんが業務委託契約を結ぶことで、副業可否とか勤怠管理などの制約から離れ、さらに自由に活動できる体制を整えた…という点です。

吉村さん曰く「これまで担当職員は3人交代したが、役所は私を自由にするということを徹底してくれているので、活動にほとんど変化は及んでいない」と。あわせて登場頂いた元美山地区公民館長で吉村さん受け入れに尽力された石川さんも、「高齢者の意見ばかりが通り、若い人の意見が潰されているのが耐えられなくて、60歳以上は入れない組織を作り、それが協力隊受入への原動力になった」との体験談を語りました。

行政と地域と隊員の絶妙の連携が、今の美山の活動成果を生み出したことが良く理解出来るお話でした。

その3 市役所雇用型:南九州市の知覧武家屋敷の事例


画像7

3つめは、頴娃おこそ会との連携ではなく、市役所の直接雇用型での新たな募集に至るまでの流れについての、南九州市役所よりの説明です。
1つめでも登場した南九州市役所の上野さんは、目立ったり奇をてらったりすることのない大変誠実な行政マンらしい行政マン。市役所内では若手のエースと呼ばれている方です。

この発表では、市として最初の募集であった頴娃おこそ会へのNPO派遣型での2名の受け入れと、今回の新たな募集経緯について触れつつ、実はこの間で実施した別の隊員の受け入れ事例についても語られました。
実は当時の役所内での事情もあり、今回のテーマである役所外勤務とは異なり、「役所内勤務」「移住政策という行政内部的な業務」を担当する隊員が着任しましたが、「勤務場所的にも業務内容的にも任期後の自立には繋げづらい」という受け入れ環境になっていました。上野さんは正直にこの経験を失敗だったかもしれないと認めた上で、現在この隊員の環境改善を図りつつ、新たな隊員受け入れの制度づくりにこの経験を活かしていることをありのままに語ってくれました。
この日の主題ではなかったこの話こそが、実は一番参加者の皆さんに響いていたかもしれません。

なお、この失敗という表現を用いることについては、市役所やこの当事者の隊員本人にも了解を頂いています。現時点では失敗でも、これを認めて改善を図ること、このままで終わりとせず失敗を乗り越えて成功に変える努力こそが大切。南九州市役所の勇気ある行動は、現行の協力隊運用に悩む行政職員や隊員の方への意義深いメッセージでもあると感じます。

そうした経緯を踏まえてつくった現在募集内容については、隊員受け入れを直接担当する市役所商工観光課の武田さんが説明しました。
保守的な武家屋敷エリアに新たな風を呼び込み、見る観光から体験する観光への転換を図ることを目指す、市の直接雇用とする、創業を目標とし副業はOK、勤務地は当初は役所内とするが段階的に地域に出すことを事前に明記する、経費などは民間団体を挟むことで柔軟性を持たせる、メンタルや創業支援は頴娃おこそ会が側面支援…という内容。実情に則した柔軟な制度で、決して特別なものではなく、どこの自治体でも実現可能な体制ではないかと思います。

頴娃おこそ会としても、頴娃おこそ会が直接関わるだけでない新たなかたちでの募集が動き出したことで、今後市全体へ隊員受け入れの広がりに繋がることから、喜ばしく思います。


グラフィック・レコード


なお当日の議事は、グラフィック・レコードという手法で、アラワスの関美穂子さんがその場で模造紙にまとめてあげてくれました。3つの発表が一段落した段階で、関さん当人がここまでの流れを模造紙を指さしながら説明してくれました。なんとも分かりやすい!

画像8


関さんが描いてくれたグラフィック・レコードは閲覧出来ますので、よろしければご参照下さい。

(*当ページ最後のリンクから閲覧出来ます)


質疑応答と参加者の反応は?


画像9

双方向型、交流型で開催したこの研修会。たくさんの質問や意見が出されました。

「業務委託の実態を教えて欲しい」
「どうすれば行政職員として権限を持って主体体な制度づくりが出来るのか?」
「担当職員の異動にどう対処すべきか?」
「地域に団体がない場合はどうしたら良いか?」
「協力隊員はどんな支援が受けられたら嬉しいか?」
などなど。
このあたりはここではとても書き切れませんので、報告書と意見感想取りまとめを一定期間公開させて頂くことにしました。それなりのボリュームですが、興味ある方はぜひご参照下さい。
(*当ページ最後のリンクから閲覧出来ます)

そして研修会の終了後は、そのまま茶話会という参加者同士の語らいの場を設け、皆さんで交流してもらいました。
こうして、多くの方々にご参加、そしてご支援頂いた研修会を無事終えることが出来、主催者としてはホッとした次第です。

研修会については、南日本新聞でも大きく取り上げて頂き、大変ありがたいことでした。

画像10


主催者の想い

隊員の皆さんは、行政と地域を変える可能性を背負っています。

行政と地域を繋ぐ立場の人材が外からやって来ることは、受け入れる行政と地域に一過性ではない新たな変化をもたらします。「地域を変える力になろう!」という協力隊のキャッチコピーには、そのあるべき姿が表現されています。
なのにこれまでの行政思考の枠の中で協力隊制度を捉えて、変化が生み出せないとすると、とてももったいないことだと思います。

鹿児島ではこの研修会を経て、いつくかの地域で隊員が動き出したり、地域団体の方が隊員受け入れに向けた協議を始めたり、行政がより柔軟な制度をつくるための研修を始めたりという動きが出始めています。

隊員の士気を高めて、自由度を持った活動をすることは、隊員本人のためばかりでなく、必ずや行政と地域にとってもプラスとなります。
なので、現在の協力隊の運営に柔軟性がなく改善したいと思われる関係者の方々には、ぜひ今回の資料を用いて担当行政職員の方々と話し合いの機会を持ってもらえたら嬉しく思います。

この研修会の開催が、皆さまの地域での何らかの新たな一歩に繋がれば幸いです。

資料一覧

協力隊研修会 報告書

協力隊研修会 感想質問取りまとめ

グラフィック・レコード (アラワス・関美穂子さん作成)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?