ジモコロに期待をしすぎて、失望した話

私はジモコロが好きだ。めちゃくちゃ好きだ。
好きなWebメディアは?と聞かれたら、多分一番にジモコロを挙げると思う。その時の気分ではオモコロと回答するかもしれないけど、それでも私の人生の中で最も興味と関心と感動を与えてもらったのは、やっぱりジモコロだった。

その中でも、私の価値観を変えるほど影響を受けたのがこちらの熊本地震時の記事。

https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kamentotsu08


https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kumamoto20160702

https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kakijiro017

https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kakijiro017

2016年に発生した熊本地震の影響を、カメントツ先生と当時編集長だった徳谷柿次郎さんが現地に取材をし、地震の二次被害である"経済損失"を受けた地域の一つである黒川温泉に、ライター100人を集めて「実費で黒川温泉を楽しみ、黒川温泉や熊本の良さを発信しよう!」という試みまで行われた。

また、この試みは白根山・本白根山噴火に際した風評被害に対しても行われた。

https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kusatsu


今年1月に発災した能登半島地震。
私はこれらの記事を真っ先に思い出した。
そして、神にも縋る思いで呟いた。

「イーアイデムさん、徳谷柿次郎さん、友光団子さん、どうかお願いします。落ち着いたら、能登半島を取材してください。」

アカウントを削除してしまったので、正確な文章は忘れてしまったけど、概ねこんなツイートをした。
そうしたら、徳谷さんが「もちろんです!」と応えてくださったのだ。
ものすごく嬉しくて、ボロボロ泣いたのを覚えている。

そして5月末、ジモコロからリリースされた能登半島地震の記事がこちら。

https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kakijiro64

この記事自体はとても良い記事だと思った。
しかし、断水が5/6の時点でも続いていることなどを否定的なニュアンスで切り込む様子もあり、まるで5月時点でも復旧が進んでいないような誘導も見られる。

能登半島の面積は東京都とほぼ同じだ。

東京都と比べても田舎とはいえ、東京都全域の地面を人力で掘り起こして1箇所1箇所点検をし、漏水や断水や故障を確認して工事を進める大変さがどれだけか、そんな途方もない作業がたった数ヶ月で終わるのなら、それは魔法か杜撰な工事かのどちらかではないか。

そして、この銭湯を運営している人は正確には珠洲の人間ではない。
北海道出身で珠洲に定住した、いわゆる移住者だ。
(※このインタビューをうけた北海道出身の方は、記事内では真摯に震災と向き合い、銭湯に対する想いや取り組みについて語られていることを補足しておきます)

ジモコロが出した過去の石川県の寿司屋の記事も、地元店ではなく県外出身者の店舗を絶賛していた。
そう気付いてフィルターが外れた。

結局ジモコロって「地元が好きなんじゃなくて、田舎に移住した人間が好きなんじゃん」

別にそれが悪いわけじゃないし、田舎の停滞したシステムや空気を変えるのは移住者だからこそできることでもある。
移住者や県外出身者が増えなければ、田舎は立ち行かなくなる。それはまごうことなき事実だ。
だけど、じゃあジモコロのジモって何?
地元のジモなら、地元ってじゃあ何?
地元メディアが愛して注目するのが「地元を離れて別地域に移住した人」
地元でずっと地元のために活動している真の地元民は?

石川県に生まれて石川県で育ち、今能登半島のために必死で復旧・復興をしている地元民をジモコロは見ないのだろうと思った。
記事内では、"地元"の人々の気配はほとんどない。
地元民としては、断水に対する指摘も含めて、北陸の民を透明化されたような失望感に駆られてしまった。

もちろん、これは私の感想でしかない。あくまでも完全に私がジモコロに期待しすぎていただだけだ。

しかし、この記事だけなら「ああ〜熊本の時みたいにはしてくれなかったのかあ」で止まっていた。

問題は、この記事は別媒体と合同で行われた取材であるということ、そしてその別媒体の記事の内容だ。

もう一方の記事は、名前も出したくないし、URLも貼りたくない。
なぜなら、そちらの記事は、ライター自身が発災以降ずっと被災者の方々や北陸の人間が苦しめられ続けている行為を真正面から行なっているからだ。

風評加害を行っているのがインタビューを受けている方と勘違いをさせる書き方になってしまったため、風評加害記事のURLを以下に貼ります。

震災後、人々を支えたのは「銭湯」だった。能登半島「あみだ湯」でのボランティアで出会った“生きる力の循環” | greenz.jp グリーンズ


この記事は、「国や県が"能登にボランティアに来るな"と言ったせいでボランティアが来ない」という風評

そして、「倒壊家屋を撮影・掲載しまくり、"まだ復旧は全く進んでいない"という誤認を強める内容」


この2点をgreenzの記事を書いているライターはストレートにやっている。

この記事は、greenzとジモコロが共同で珠洲市の銭湯にボランティアに行き、取材をするという企画だ。
ジモコロは別媒体とはいえ、真正面から風評加害を行なっている記事を「震災支援」として受け入れ、容認していると捉えられても仕方ない。


再三申し上げるが、発災直後の能登は一般車両や一般団体が行ける状態ではなかった。何よりも塞がれた道路の復旧、火災の鎮火、被災現場の人命救助、被災者の救護活動、そして物資支援という、現場のプロがいち早く駆けつけて対応しなければならない、それに集中しなければならない状態だった。


国も総理も県も県知事も自治体も、
「緊急車両を優先するために一般の方々・ボランティアは今は能登に来ないでください」
「ボランティアを希望する方々はこちらに登録して、受け入れが整うまで待っていてね」
という発信を続けていた。

そして、ボランティアの受け入れ態勢が整った時点で対応を開始し、さらにボランティア団体への要請なども行なっている。

「ボランティアに来るなっていった!!能登に来るなって言った!」と読み取るのは、文章のプロであるメディアとして本当に正しいと思っているのだろうか。

こうした「能登に来るなと言っていた」「ボランティアに来るなと言っていた」という風評被害により、勘違いは拡散し、デマを訂正する被災者や北陸の人間に対しての誹謗中傷も多く行われている。

そんな、そんな内容の記事を、能登半島地震への復興の一歩という形で取材をし、共同取材であるという形でリリースをして、あの記事を知っていながら「復興のための行動」として容認した、そんなジモコロを私は一生許せない。

かつて風評被害のためにライターを100人集めたメディアは、こと能登半島地震においては、私たちが苦しめられている風評被害を助長する記事を容認した。

それは紛れもない事実だ。

私はジモコロに勝手に失望したし、たかだかいちメディアの編集者たちを過度に信奉しすぎていただけにすぎない。
彼らの記事は、「能登半島は復興も復旧も遅くて、国や県のせいでボランティアが集まらない可哀想な国の被害者」という構図を好む人間にとって最高の記事だと思う。

ジモコロで検索しても、X上ではあの記事を呟いている人は関係者しかいない。
その程度の記事だった。そして、その程度の記事だったからきっと今後も能登半島地震に対するジモコロ及びHuuuuの企画はないだろう。
あったとして、実害が本当にひどく出ている風評を真正面から書いた記事を、他媒体とはいえ良しとしたメディアが、被災地に対して何をするというのだろう。

ジモコロはとても良いメディアだと思う。
今まではそうだったし、これからもきっと良い記事がたくさん出ると思う。
だけど、地元の震災を、復旧状況を、支援を、被災者の声を、風評被害を発災からずっと見続けてきた自分は、メディアは見たいものしか見ないのだと実感した。

そもそも、彼らがスムーズに珠洲市まで行けたこと自体が、地元の建設会社や土木業者の方々をはじめ、全国の支援企業の尽力のおかげなのだ。

私たち石川の人間は、平時ですら珠洲市に行くのがどれだけ長い道のりか、山の中の道、山際の道かをよくわかっている。
加賀市から行けばもう半日の旅だ。
地元民はみんなわかっている。能登の道がどれだけ少なく、どれだけ山の中にあって、それらが崩壊したり埋まってしまった場合どれだけ大変かを想像できる。
だけど、能登を知らない人は想像ができない。都会のように少し曲がれば別の広い道があると思っている。
険しい山も、海風が激しい海沿いも、波が常時立っている日本海も、何も知らない。
水道工事がどれだけの工程があり、どのような手法で行われ、何平米あたりどのくらいの業務時間が必要か知らない。
知らないから言えるのだ。知らないのに、言えるんだ。
私だって水道工事がどれだけかかるかなんてこれっぽっちもわからない。
だけど、地面を掘り返して埋まっている水道管を全て点検することを能登全域で行わなければならないことがどれだけ大変かはわかる。
それを遅いと責めて良いのは、少なくとも被災者だけだ。

noteでも、メディアでも、観光客でも、これからもこうした「俺たち自分の目で能登を見てきたぜ!こんなに酷かったぜ!」という発信は続くだろう。
だけど、そのために通る道を余震の続く発災直後から今日に至るまで復旧し続けている人々がいることを彼らは考えないだろう。
当たり前のように立ち寄るPAや店で、当たり前のようにトイレを使い、手を洗い、当たり前のように入る飯屋で飯を食うだろう。
そうした行為ができることは、地元をはじめ全国の水道事業者の方々の尽力あってだと微塵も考えないだろう。
当たり前にスマホで撮影をして、宿でスマホの充電をして、テレビを見て持ち込んだノートPCを使ってwi-fiに繋いで記事を書く時も、電力会社や通信系事業者の方々の復旧作業が行われていたからこそ使えるという発想は一切出てこないだろう。

そして、所有者の許諾なく撮影した倒壊写真を所有者や居住者の無断で掲載し、「全く復興が進んでない!!」と書くのだろう。

発災からずっと行われている、まさしく復旧復興の恩恵を受けながら。




大好きなブランドを取材されてる記事が挙がっていて、やっぱりこういう記事は最高だと思った。
だからこそ悲しい。これからもジモコロは読み続けると思う。
でも多分復興に関する記事を心から受け止めることは今後もないと思う。

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