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伝説の山椒と田舎で見つけた香りの宝

横浜で司書として働きながら、お香づくりや香原料について学んでいる、ヨシコ・コジチさんにご寄稿いただきました。パートナーの実家である兵庫県の丹波と但馬でヨシコさんが出会った、伝説の香辛料「山椒」。その香りをめぐる物語です。

伝説の香辛料「朝倉山椒」

朝倉山椒は、但馬の朝倉の特産品である。朝倉に行けば、道の駅の直販所では山椒を使った色んな食品が売られている。どれもが大変美味しいので、全てを買いたいという衝動に駆られたことを今でもよく思い出す。

朝倉山椒と市場で売っている普通の山椒との違いと言えば、やはりその絶妙な柑橘系の清涼感をもつ風味と香りだちではないかと思う。辛味も違っていて、普段使う山椒より「ガンッ」とくるような感覚がある。

そんな山椒は、朝倉の地で400年も昔から育てられてきた。私が随分と前から愛読している江戸時代の百科事典「和漢三才図会」のなかにも記述があるほどだ。

──山椒の魅力的で気品ある香りに誘われると、発想力と想像力が満ち溢れてくる。たとえば、山椒の香りは食すためだけではなく、香水創りにも活かせないだろうか? 山椒のキリッとしたスパイシーな香りは、ウッディーな香りと相性が合い、香水づくりに最適だと思うのだ。

もちろん、食す山椒も非常に良い。山椒の名所・朝倉に程近い丹波では、山椒の木を栽培し、その採れたての実を料理に使う食堂がある。私はパートナーのお父さんに、そこへ連れていってもらったことがある。

非常においしい山椒の葉と実を使った料理を食べたあと、お店のお母さんが、裏側に広がるお庭へ案内してくれた。そこには風に揺れる山椒の木があった。大変感動している私を見て、お母さんは「あら山椒の木を見るだけでこんなに喜ぶんだ!」とおっしゃった。

栴檀と白檀

先に書いたパートナーの父は、丹波でほかにも香りの宝物をくれた。お香好き、なかでも白檀好きの私の情熱を見てテンションが上がった彼は「和香木の木」を見せたいと言って、近所の野畑へと私を連れていった。

それは「栴檀」という木で、確かに素晴らしい香りを放つ木であった。「栴檀」は、昔の日本では白檀のことを指す言葉で、その語源は古代インドのサンスクリット語の'Candan'(サンダン、センダン)。しかし、現代においては別の木のことを指している。

それでも栴檀という木は、白檀と似たような香りを放っていた。だからこそ、白檀を指す名を付けられたのだろう。ただ、花を嗅いでみると白檀の気配はなく、いかにも花らしい香りがほんのりと漂っているだけだった。

──朝倉や丹波をはじめ、兵庫県には数多くの穴場や聖地があって、自然が生み出した多彩な香りを漂わせる植物や森林に癒されながら、いい思い出を作ることができる。そして、新たな出会いが次々と生まれていく……。私は、こうした出会いを、まさに人生の醍醐味として感じている。

【プロフィール】ヨシコ・コジチ
ドイツ生まれ育ったクロアチアとジプシー人。愛香家と創香師として日本に伝わる「香の文化」を極めて、香原料の勉強に精進。日本学と東南アジア学出身で、日本で山伏をやりながら仏教(密教)とヒンズー教またはアジア各言語の研究もしております。
編集協力:OKOPEOPLE編集部

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