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「産まされる」のを拒む人々

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 岸田総理から異次元の少子化対策という言葉を聞いてからちょっと経過しているが、一応は本気で対応していようとしているらしい。その一つとして下記のような提案がなされているようだ。

 自民党の「教育・人材力強化調査会」は2日、子育て世代の教育費負担の軽減に向けて来週中に取りまとめる提言の内容を固めた。学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもをもうけた場合、返済額を減免することなどが柱。20代~30代前半の子育て時期と奨学金の返済時期が重なるため、返済額を減らして子どもの教育にお金を掛けられるようにする狙いがある。

 内容は見てもらったように、奨学金を支払っている若い世代をサポートするために、奨学金返済を一部免除しようとする提案である。ハンガリーにも似たような提案はすでに出ており、海外事例を自民党なりに参考にしたのだろう。 

 何とかして出生率を回復させたいという自民党の考えは伝わってくるのだが、それに対する反応が割とよくないのだ。





 

 ・・・えーとすいません。何で怒ってるんでしょうか?

 と思う人もいるかもしれない。というかいる。子育て対策として出しているのだし、内容も親を支援するものではないのか?そう思うだろう。

 しかし、不思議かもしれないが、こういった反応はフェミニストやリベラルだけではなく、割と幅広い分野から不評を買っているようで。何だったらフェミニストとは普段は仲悪そうな人でも、同じような反発をしていたくらい。

 全部だせないにしても、一部引用しただけでもこれである。普段なら賛成しそうな人々は、いったいなぜそんな風に思ってしまったのだろうか?

1 普通に見たら利点にしか見えない。はずなんだが。


 かの人たちの考えをまとめる前に、まずはこの政策自体についての評価を出したい。

 既にハンガリーでも似たようなものがあると説明したが、この案も出産や子育てに対するインセンティブの一部に過ぎない。

 また、児童手当のような直接的に金銭の授受をするケースや、幼稚園や小学校などを無償化や所得税の減免といった、金銭的な負担を減らすような手段。育児休暇のような、時間的な育児支援など。

 複数の手段で子育て世代の負担を減らす政策はあるのだが、本件は直接関連性のある項目ではないが、金銭的な負担を減らす行為により間接的に支援しているものではないか?という風に考えられるだろう。

 返済すべき金銭を別のものに回せるようになれば、子育てにも余裕が出るはず。普通はそう考えるものだろうし、少子化対策としても出ている以上、結婚や出産などを促す策ではないのか?

 と、本当ならなるはずだった。


2 「なんか産まされそう」というお気持ちの発露


 しかし、すでに指摘した通りそうはならなかった。単なる見た目だけなら同じような物だろ?と思うわけだし、何だったら自民党じゃなかったらこんな反応を出さなかった人もいたと思う。

 単なる党派性か?もちろんあるとはいえるが、それ以外のところで見ておくポイントがあると筆者としては考える。それは


 「産まされそう」という感覚であると。

(1) 産む選択の自由と借りたお金ということについて

 
 ここでヒントとなる概念がある。それが「産む権利」という概念だろう。中絶や出産という場面に出てくるものだが、まあ簡単に言えば女性が子供を産むかどうかは、当事者の女性が決めるというものだ。

 で?なんでそこに引っかかるのか?とちょっと突拍子のなさも感じるだろう。その疑問に答えるように形になっているのが「奨学金(借り入れ型)」である。

 ちょっとお金の返済というものを考えてみてほしい。

 ほんの少し過去にさかのぼると借金の返済のために、人身売買やきつい労働場所に送り込まれるといった借金返済をさせられるということはあった。花魁のような体を売るようなところもあれば、タコ部屋に監禁して重労働etc。お金のために無理やり体を使わされて、お金を返すまで死ぬまでやるか、運よく返済を終えるか、逃げ出すか。そんなところまで働かされるようなことはざらであった。

 現代では、お金の返済について無理な取り立てや恫喝などはほとんどできなくなり、自己破産といったものあるため、少し想像しにくくなっているところもあるだろう。

 ただ、彼らは過去の借金返済のようなイメージを思い浮かべてしまったのではないだろうか。

 奨学金の返済という文字通りの借金というもの。そこに、出産という条件で返済を一部免除するという、女性の体を使った返済手段。この二つが重なって、悪いイメージが想起された。それが

 「産まされている」という感じなのではないかと。


(2) 男女双方に適用するということで、よりひどくなる

 また、一部男性差別ではないだろうか?と言う話もあったが、柴山昌彦氏からそれを否定する見解があった。本来なら、男女別なく平等にも見えるだろうが、その視点ですらもより悪化する話になっている。


 もちろん、本来は父親の財産状況の改善をすれば、今後も生活も楽になる。わざわざ片方だけに適用するよりも、より多くの人を救済できるだろう。

 しかし、反対する人はそんな風だけとは考えない。出産させるだけさせて離婚して養育費を払わないといったように、都合よく制度を悪用する人が出るのはないか?といった感じで、自分の都合のために、女性を利用することに対する拒絶感を産み出す結果となり、ますますさせられるという感情が生まれるのだ。

 自己決定の範囲に他人が入り込むことによって、より自己決定感を害され、他人から強要されているという感覚に襲われるのだ。

3 感情を揺さぶるものが面倒事を生んだのでは?


 結局は、支援する内容がなんだか「何か女性がさせられているような感覚に陥る」という、感情を揺さぶられるような内容だったのが、大きな原因だと考えている。

 それが自民党というような、人によっては保守的でパターナリスティックな勢力だと思われている所なら、なおのことだろう。

 一般人が普通に見れば、「いつも通りの少子化対策ではないのですか?」と思うようなものでも、誰がやったとか何をやったとかでついつい釣られてしまったのだ。

 いやはや、感情のコントロールというのはとても難しい。


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