御堂筋事件がきっかけはデマか? 前篇 女性専用車両の制定経緯について

御堂筋事件がきっかけはデマか? 前篇 女性専用車両の制定経緯について


 近年、女性専用車両が導入されたきっかけとして、御堂筋事件を挙げるような情報が流されている。

 この件について、詳しい内容は下記記事の「3 女性専用車両から近年、急に話題に出てきた御堂筋事件」に譲るが、10年以上も情報として挙がってこなかった代物が、突然拡散されることとなり、客観的な情報が全くない状態で、真実として語られたものである。


 従来であれば、詳しい検証をするべきであろうことなのだが、主張する者からはそれらしい情報が出てこないだけではなく、あやふやなまま弁護士ドットコムから関連性があるかのような記事が出るなど、非常に憂慮すべき状況である。


 本記事は、御堂筋事件との関連性についてしっかりとした調査がされていないことに、非常に憂慮する故に調査掲載をするに至ったものである。
 先行して書き上げた記事から、より当時の資料を調査をしていくとともに、本当にきっかけとして取り上げてもいい内容なのだろうか?なぜこれほどまでに広まってしまったのか?事件そのものをきっかけにすることによって問題になってくる点は何か?を探っていきたいと思う。


1 当時の導入経緯や資料を読み漁る。


 過去の資料を見て、御堂筋事件の検討を進めたわけであるが、最初に行ったのは直接の資料である鉄道会社や国土交通省、公明党といった女性専用車両の創設に直接かかわった団体から出された資料がいいだろう。

(1)鉄道会社の資料に関して

 女性専用車両が最初に導入された路線は京王電鉄である。利用者の声がきっかけとなって女性専用車両を導入しようというものである。会社側としては当初どのような方法で対策をしようかと検討していたところ、かつて婦人子供専用車を運行していたことをヒントに、女性専用車両を導入したというものだ。(京王電鉄広報部より、内容を要約)
 2000年12月に帰宅の時間帯において試験的に導入すると同時に、事前調査においてアンケートも実施しており、男女ともに半数以上の賛同を得ていることなどから、2001年のダイヤ改正とともに本格的に導入したということになった。
 (女たちよ、女性専用車両に乗れ P175~P176  から要約)

 利用者の声から導入が開始されたということにはなっているが、事件の話はここでは出てこない。2005年に時間帯の拡大や更なるアンケートを取ったような話は見受けられるが、事件の話はない。
 その後、いくつかの鉄道会社がこの動きに追随したりするような動きはあったが、アンケートといった調査をしているようなことはあっても、特に御堂筋事件のことに言及しているようなケースは見当たらなかった。

 比較として、サンダーバードのような事件があったときには、女性専用席のようなものができたといううわさもあったりする。下記が実際にあった事例である。

 事件のあったサンダーバードで、女性専用席が導入されたのはちょうど2007年10月1日であり、事件があった時期と近い時期であるので、事件が原因なのではないかと考えられているようだ。(参考)

 上記の事件と設置タイミングを考えると、因果性を考えることはありうるのだが、御堂筋事件と女性専用車両に関しては、時間的感覚も空いており、事件のことそのものも触れられていない。
 

(2)国道交通省のアンケート結果などに関して

 次に女性専用車両で調べるべきところは国土交通省である。女性専用車両の導入を考えるにあたって、国交省を外すことはできない。
 女性専用車両が導入されたことを契機に、国交省においても複数の鉄道会社の協力を得ながらアンケートを実施するなどして、女性専用車両を試験的に導入して、その結果を公表したものがある。

女性専用車両 路線拡大モデル調査報告書
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/15/151209/02.pdf

 上記報告書では、アンケートの結果や運用状況の報告など、実証経過の詳細な報告はされているが、報告書を精読しても特に御堂筋事件のことを記載しているようなものはない。
 女性等に配慮した車両の導入促進に関する協議会を、鉄道会社などと後に行っていたりもするが、それらの情報からも御堂筋事件に関しては触れられているものはなかった。


「女性等に配慮した車両の導入促進に関する協議会」第1回会合の開催結果について

http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080307_.html

「女性等に配慮した車両の導入促進に関する協議会」第2回会合の開催結果について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080328_.html

「女性等に配慮した車両の導入促進に関する協議会」第3回会合の開催結果について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/08/080707_.html


 国交省の用語解説なども調査したが、それらしい記載はこちらにも存在しない。


鉄道事業者において、輸送サービスの一環として導入された女性等に配慮した鉄道車両。以前から長距離夜行列車等の一部には、女性が安心して乗車できるように1車両あるいは1部の座席を女性専用とする例は見られた。最近は、主に通勤・通学に利用される電車についても、利用者の理解と協力のもと女性等に配慮した車両を導入する会社が増えてきている。


(3)公明党の記事から

 女性専用車両の拡大に貢献したものとして、大きな声を上げているものとしては、公明党の存在も挙げられる。公明党は国土交通省ともつながりが深いわけであるが、党の方針も一役買っていたようだ。

 2005年に関西ですでに導入が実施されている女性専用車両を拡大させるために、公明党女性委員会と青年局(当時)が、導入を求める署名活動を展開したことが公明党の広報などからうかがえる。これと同時に、公明党の議員が国会で直接呼びかけをしたり、街頭で女性専用車両の導入を呼びかけることもしてきた。


 女性専用車両の導入拡大をした後は、自分たちが行ってきた政策の一部として、以後PRされるようになった。
 一部では、公明党の人気取りなのではないかというようなうわさもあったりもしたが、御堂筋事件に関して公明党側からふれられているような記事は見当たらなかった。

 導入経緯や各鉄道会社の動き、公明党などの主要政党の動きなど。直接かかわっているところの資料を見ていても、女性専用車両導入時に事件の名前すら出ていないのである。基本的には利用者の声や、アンケートなどの実施、試験的な導入などが直接的な原因であり、事件は基本的に無関係であると考えられる。

2 その他の資料について


(1)関連性に否定的な面を寄せる資料も

 その他にも、数少ない女性専用車両の文献をあさってみたわけではあるが、「女性専用の社会学」という本においては、御堂筋事件やそれに伴って発生した痴漢撲滅運動と女性専用車両との関連性をほぼ否定しており、より直接的で密接に関係している原因は下記の通りだと指摘している。
 1995年3月に起きた地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災などを契機に、被害者の精神的な被害について重要視されるようになり、1996年1月に「警察の被害者対策に関する研究会」が開かれ、2月には「被害者対策要綱」を策定。その中に、女性性犯罪被害者の対応についても書かれており、事情聴取の適正化、女性警官の聴取の拡大、ポスターの掲示、相談所の設置などをこれをきっかけに行っている。別の事件や災害をきっかけに、警察が積極的に犯罪被害者支援をし始めたことが波及して、被害者支援を行うきっかけではないかと述べている。(要するに、御堂筋事件も含め、直接痴漢案件があってやりはじめたことではなく、別のきかっけで動き始めたという面が強いのではということである。)
 その後、女性専用車両が導入され始める2000年あたりには、目立った動きはなかったようだが、2003年8月に「緊急治安対策本部」の設置以降から、再び痴漢に対しての積極的な活動を行ったようだと報告している。痴漢被害のアンケート公表、痴漢自体の検挙件数が1996年から2004年まで増えていることの報告など、統計上のものを利用して、警視庁からの女性専用車両の導入圧力が強まったのではないかと筆者は考えているようだ。
(女性専用の社会学 P50~P55参照)

 これを補完する証拠として、魚拓であるが以下のものが挙げられる。警視庁が女性専用車両について、鉄道会社に出した共同声明の魚拓である。
https://web.archive.org/web/20071120004707/http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/chian/meiwaku/kyodosengen.htm

https://web.archive.org/web/20071119160756/http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/chian/meiwaku/toitsucampain.htm

 

(2)論文などにも記載があるものが近年のものくらいしかない?

 2017年以前の女性専用車両を題材にしている論文なども、こちらが調べられる限り読んでみたのではあるが、事件に関して経緯にすら触れられていないものばかりであった。特に、2012年に出された下記の論文には女性専用車両の歴史に少し触れている部分があるのだが、御堂筋事件の話がない。

電車内の迷惑行為に関する監察的検討 ~女性専用車両との比較~ 著者 北折充隆、小野寺理江
https://kinjo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=497&file_id=22&file_no=1


 明治時代に婦人専用車両が導入されたことから、急に2000年代に京王電鉄京王線で試験導入をされたことをきっかけとしており、その間の時代については何ら書かれてはいない。

 国会議事録なども調査したのだが、そこにも御堂筋事件の話すら存在しない。(リンクがおかしかったので、スクショにおける検索結果表示などに変更 令和3年6月17日)


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 以上により、直接的な原因となるかどうかを複数の文献をもとに調べていたのだが、そもそも御堂筋事件に関して専用車両を設置した当時の資料を調べても、何ら記述を見つけることができなかっただけではなく、御堂筋事件の関連性をほぼ否定する資料まで発見されることとなった。
 当時直接かかわったところが全く触れていないというのであれば、きっかけとしてほぼ考えられないものといえる。

 直接的にきっかけとして情報提供したのはやはり下記論文が初なのではないかと思われる。

女性専用車両、設置の経緯と考察 ―性暴力被害防止の視点から―
著者 山本(山口)典子


 この論文が出てからも、認識はなかったのかしばらくしてから出た記事ですらも(予備)、御堂筋事件の話を出しているにもかかわらず、女性専用車両の話は何らしていない。件の論文からほんの少し前にあげられた記事などがいくつかあっても、やはり女性専用車両と御堂筋事件との関連性を書いているものはなかった。(小川たまか氏の記事とfaavoにて「痴漢抑止バッジ」をつけて痴漢行為から身を守ろう!というキャンペーンで書かれたコラムをその他参考文献に掲載しておく。)

 広まったのはもうちょっと後で、既に前にも書いたが、千田有紀教授が2018年に広めたことが、情報拡散のきっかけだと思われる。

 グーグルの検索結果を見ても2017年以前の検索結果には、御堂筋事件と女性専用車両がなにか絡んでいるものですら検索結果にほとんど出てこない(後篇でも紹介するが、性暴力を許さない女の会が出したコラムと、その転載と思われる記事が1件ほどで、2,3ページも検索結果を見れば関係ない話題ばかりになる。)ことも、この事件がきっかけとして語られることもなかった結果といえるのではないだろうか。

2017年以前の検索結果はこちら

 予備()

ついでに2017年からのもの (予備)

 前篇はここまでであるが、もし、ここで挙げられている情報以外のもので、直接的に御堂筋事件がきっかけといえる「当時の」資料を持っているのであれば、ぜひとも挙げていただきたい。私としても真実を知りたいので、出していただければうれしい限りである。

  後篇は、御堂筋事件は果たしてどこから出てきたのか?というところを探っていくのと同時に、なぜ広まったりしたのか?広まった影響は?といったところを記述していきたいです。


その他参考文献

女性専用車両に関する一考察 : 痴漢被害の実態とともに 著者 岡部,千鶴
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11036922

鉄道サービスにおけるストレス軽減効果の検証 著者石田 眞二, 武田 超, 白川 龍生, 鹿島 茂
https://ci.nii.ac.jp/naid/130007623388

名古屋市 報告書(10)女性専用車両に関する件
http://www.city.nagoya.jp/somu/page/0000006655.html


「痴漢は犯罪」ポスターが生まれるまで 大阪「性暴力を許さない女の会」の28年
https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20160310-00055229/

25年間で痴漢をとりまく問題はどのように変わったのか?
https://faavo.jp/tokyo23/project/806/report/6043


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マスキュリズム関連をかじってるペンギン? が、流氷に乗ってnoteに流れ着いてきました。 マスキュリズム関連を中心に何か趣味の物でも書けたらやっていく予定。