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江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』

あー好き。読み終わりたくなかった。ずっと読んでいたい。ずっとこの世界を覗いていたい。私は江國さんの小説やエッセイを読むと、「おもしろい」より「気持ちいい」。

もちろんおもしろさもあるんだけど、江國さんの描く世界が好き。私が江國語と勝手に読んでいる、

江國さんならではの言葉の選び方(今回の話に出てきてはないが例えば、「たっぷりしたジャケットに」など。何?その素敵なジャケット!?となる。)

修飾の仕方(今回の小説の適当なページをめくってみると「梅の花の形の小鉢―――ぽってりと厚ぼったい陶製で、色は淡いサーモンピンク―――」とある、こういうの)

が好き。そして登場人物がみんなウイットに富んでいるところも好き。(これもよく江國さんが使う言葉!機知とは言わないのです。)子どもの内面の描写が、子どもを見下していなくて、子どもの人権が守られているというか、人として尊重されているところも好き。江國さんの物の見方が好き。

という好きに溢れた世界なので、江國さんの小説を読むと私は本当に気持ちよくというか、心が豊かになるのです。日常生活でも、こんな時、江國さんの小説に出てくる登場人物ならどうするかな、とか考えることがたまにあります。(笑)

私は江國香織さんが一番好きな作家さんだと言っても過言ではないので、同じ本を2回読まない私は、大切に大切に江國さんの小説を読んでいます。だから年に2~3冊のペースを遵守しています。(笑)

そこで今回読んだのが、この『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』。これはおそらく出版当初くらいから、なんておもしろそうな本!!!!とずっと温めていた本なんです。

今回、本屋デートをしている際に、夫が「好きな本を一冊買ってもいいことにしよう?」と言ってきて、私がこの本を温めている話をすると、夫も読みたい!というので、満を持して購入しました。

読んでいる何日かの間、とても贅沢な時間でした。読み終わりたくないので後半はちょびちょび読みをしたくらいです。

このお話は、とある家族(言葉を獲得する前の幼稚園児の男の子、拓人。しっかりものの小2の姉、育美。夫の不倫が許せないが別れられない妻、奈緒。家族と一人の女性を愛する夫、耕作。)を中心にそこに関わる人々の視点が交代で描かれる物語。家族みんなそれぞれに素敵だし、隣の家の声の大きいおばあちゃんや、なんなら夫の浮気相手の真雪さんすら素敵。その中でもこの小説の軸となるのは拓人。

拓人は言葉の発達が遅いと周りの大人たちに言われているが、心の中では、いろいろなものを見ていて、虫たちや世界と対話している。大人ってなんでこんなにディテールにこだわるんだろうね、子ども(拓人)が見ている世界はこんなに本質的なのに。って思いました。拓人の世界は言葉は少なくて、音でできています。拓人視点の文章は全てひらがなでかかれていて、最初は面食らうんですが、だんだん気持ちよくなっていく。澄んでるなー、そういう感じ方なのね、みたいな。最後の拓人視点に漢字が現れたときは、すぐさま反応してしまいました。おおっ拓人ついに!という気持ちと、拓人の成長を読みながら感じていたので、やっぱりそろそろだと思ってたのよね!という気持ち。そして何だか嬉しかった。言葉の獲得は世界の解像度を上げるのか下げるのか、どうなんだろうと読み終えて考えましたが、どうだろう。なんかべつの世界のような気がします。言葉で理解する世界と言葉はいらない世界って。そして言葉がいらない世界は、言葉を獲得する前でなくても、みんなが本当は持ち続けている世界な気がします。この小説の魅力を特筆するなら、そこかなと私は思います。

娘にミルクを飲ませた後、コーヒーを飲みながら――一人で飲むときはインスタントのスティックコーヒーと決めている――、という江國節をちょっと使ったりしながらnoteを書いたり、本を読んだりする時間がすごく幸せです。いつも心に江國香織を、は豊かに生きる秘訣です。

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