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『なつのひかり』江國香織

江國さんの小説が大好きなんです、
何というか江國さんの小説は贅沢なんですよね。

贅沢な表現で溢れている、ある種、詞のような小説。
テーマや思いを考えるのではなく、世界を愉しむ小説。
(楽しむ ではなくて 愉しむ。)

この『なつのひかり』という小説も、限りなく
美しく豊かな世界を愉しむ小説です。

まず、あらすじを書くのが難しい。
試しに書いて見ると、

主人公 函崎栞は21歳の女性。ある朝、隣の家に住む少年がヤドカリが迷い込んできていないかと訪ねてくる。それから、栞の周りにそのナポレオンという名のヤドカリが象徴的に現れる。栞には、兄がいて、兄には美しい妻と、無愛想な3歳の娘と愛人がいる。栞は双生児のような兄のことを愛しているし、妻とも愛人とも仲が良い。その妻がある日突然失踪し、兄と名前の反対の名を名乗る兄とその奥さん(前述とは違う、美しくない妻)が家に転がり込んできて、気づいたら兄もいなくなっていて、、、、みんな何かを探しているお話。

「私は途方に暮れた」という表現が本文中に何度も出てくるけど、
あらすじを書こうとする私も途方に暮れる。
そんな小説です。

あらすしを書くのが難しいので、試しにページをめくってみます。

遙子さんは目を伏せる。美しさというのは大抵人に緊張を強いるものだけれど、この人の美しさはちがった。羽根布団のようにやわらかくてやさしい、宇宙を包む薄絹のようにしずかな美しさだ。

「なつのひかり」P72、73

ぱっとひらいたページにもこんなに豊かな表現がある。
これは夫の妻の遙子さんの描写なのですが、
美しさを描写するのに、出してくるのが「羽根布団」。
そして宇宙は薄絹にしずかに包まれてたんですね!!!?!
と何とも江國ワールドですよね。

こんな美しく豊かな表現がどのページにもたっぷりとある。
そりゃ読んでいて愉しいわけです。

解説を三木卓さんが書いておられて、そこで分かったのですが、
この小説は江國さんが20代後半で書かれたもののそうで・・・
20代後編にしてこの世界観と表現力・・・
やっぱり江國香織さんは言葉の魔術師です。


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