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story 拉致

一日数時間にして手にした10万円。馬鹿だった17歳の俺にとって危ない匂いは感じていたが嬉しさが勝っていた。次の日もいつも通り現場に行く。この日は横浜の大きな現場で25階建てのマンション塗り替えだ。成塚は鑑別所だからこの日もいない。養生をしながら会社のおじさんに昨夜の尾島先輩との件を話した。            「お前、それ絶対やべーよ。危ない事ばっかしてんなよ」なんて心配してくれてる。      ルンルン気分だった俺は人生初のキャバクラに行きたくて地元のリョウに奢るからキャバクラ行こうと電話した。答えはもちろんYES。     帰りは渋滞にハマってしまったがなんとか夜8時には会社に到着したので速攻帰宅して着替えて大宮に電車で向かった。リョウは大宮の通信制高校に通っているのでそのまま合流した。      竹田も一緒に居たので缶チューハイだけ竹田にも奢り3人で缶チューハイを飲みながら少し話した。その後竹田とはお別れしてリョウと2人で南銀通りを歩いた。キャバクラのキャッチがめちゃくちゃ話しかけてくる。当時の大宮は年齢確認が本当にゆるゆるだ。素直にキャッチに捕まりいよいよ人生初のキャバクラだ。笑 17歳にして2人ともキャバクラデビュー。店内に入るとギラギラしていて眩しかった。席に着くなり鏡月の水割りを注がれ2人で飲んだ。焼酎はあまり口には合わないけど。結局初めてのキャバクラはお互い少し緊張してしまいあまり楽しめなかった。笑ワンタイムで合計1万円を支払って店を後にした。        「キャバクラ、つまんなかったな〜」と俺が言うとリョウは「だな〜」なんて言ってたけど完全に鼻の下が伸びてる。分かりやすいやつだ。笑

また居酒屋で飲み直す事にして2人で終電まで飲んで電車で帰る事になった。酒の飲み方を知らないから沢山飲めた方がカッコイイみたいなジンクスがあって2人とも帰る頃には酔っ払いだ。笑   リョウなんて帰りの電車の中でゲロを吐きやがった。最寄駅に到着すると俺もしっかりとホームで吐いた。。笑 嫌な顔をしたサラリーマンが通り過ぎていく。改札を出て2人で一本吸ってこの日は解散になった。 

酔っ払っていた俺はフラついた足取りで駅から家まで歩いていた。いつも溜まってるセブンイレブンに寄ってタバコを買い、一人で夜空を見ながらタバコを吸ってる。やけに視線を感じるな〜と思って見ると黒のアルファードに乗った男が物凄くこっちを見てた。練馬ナンバーだ。都内か。。 新宿での一件と尾島先輩との一件もあってか少し怖かった。タバコを吸い終わってまた家に向かって歩き始める。               少し歩いていると後ろから車が来て俺の横にピタッと停車した。さっきのアルファードだ。   窓が開いて「中島くん?」と声を掛けられ俺は「はい」と返事した。するといきなり車の中から鉄パイプみたいなもので頭をぶん殴ろれた。俺は気絶してしまったみたいだ。目が覚めた時にはもうアルファードの後部座席だった。体と手足はガムテープでグルグル巻きにされてて身動きが取れない。頭もガンガンして痛い。この状況を理解した俺は恐怖で足がガクガク震えてきた。    「お、目覚めたね?手荒な真似してごめんね〜。ちょっと話聞きたいから着いてきてもらえる?」と助手席の男に言われた。走行中色々な事が頭をよぎる。どこに向かってるかとかこの状況は何故起こってるのかとか。。           

車が信号などで停車する度に何が起こるのかとビクビクしていた。高速道路を降りて到着したのはやはり新宿だった。。            人混みを車でかき分けて止まった所はおそらく事務所と思われる建物の前だ。そのまま俺は2人掛かりで担がれて事務所に連れて行かれた。事務所に入ると尾島先輩が血まみれで正座してる。 終わった。。                 

「ようこそ、こんなガムテープだらけじゃ歩けないじゃんかよ〜」と図太い声をしたおじさんに言われ巻かれたテープを剥がされた。足が解放された途端そのままぶん殴ろれた。       「はい、正座して」と言われてその場で正座させられる。恐怖で震えが止まらない。「それで?誰の命令?」と言ってナイフを目の所に突き付けておどしてきたので俺は「わかりません!ただついて来ただけなんです!」と言うとパイプ椅子でまた頭をぶん殴られた。血がダラダラと流れてくる。「だらしねーな!シャキッとしろよ兄ちゃんよ〜」と言われて顔面にサッカーボールキックを食らう。「あーあー。事務所汚れちまったな〜。どうすんだよ!」と言って髪の毛を掴まれバンバンっと2発顔面パンチを食らう。        尾島先輩が「そいつはなんも悪くねぇ!俺について来ただけなんだよ!」と叫んでくれてる。こんな状況でも庇ってくれるが「だったら誰の命令なんだよ?死ぬんかガキがコラァっ!」と言って尾島先輩が椅子で頭ぶん殴られてる。その光景を見て俺はまたビビってる。「兄ちゃん、いつまでぶるってんの〜」と言われてまた椅子でぶん殴られた。頭からドンドン血が流れてきて顔も服も血まみれだ。アドレナリンで、痛みなんて吹っ飛んでしまってるが震えと血が止まらない。「早く建てやコラァ!」とまた怒鳴り散らされ手の甲に思いっきりタバコを押し付けられた。。      ジュゥゥゥゥ!!俺はたまらず「もう許してください!本当に知らないんです!」と叫んでしまう。すると周りの大人たちは笑いながら「兄ちゃん達さ、自分がやったことわかってる?早く吐いちゃいなよ。本当に死んじゃうよ?」と言ってまた腹に蹴りを入れられて顔面パンチをもらう。。時間をチラッと見ると深夜3時だ。きっともう事務所に着いてから1時間くらいは経っただろうか。殴ってる方も流石に息が切れて来てる様だ。無言のまま再び5、6発殴られた。痺れが切れたのかこう切り出して来た。「あのバッグにさ、600万入ってたろ?あれ、大事な金なんだよね。同じ金額用意するか臓器売ってもらおうと思うんだけどどっちがいい?」と言われる。もう俺は死を覚悟してた。怖いなんて次元はもうとっくに超えている。

「おい、証拠残ると面倒だからこいつらのポケットの中身全部出せ」そうして服も全部剥ぎ取られ2人ともパンツ一丁にされた。背中の刺青を見た相手は「お〜。若いのに立派なもん入れちゃって。背中の龍が泣いちゃうよ〜」と言いながら財布の中身とか身分証を隅々まで物色してる。

尾島先輩の財布を見た男が「兄貴、これ見てください」と名刺の様なものを手渡していた。   それを見た男は尾島先輩に「兄ちゃん、知り合いか?」と聞く。尾島先輩は頷いた。「めんどくせ〜な。よりにもよって上部団体かよ」と携帯電話を取り出して誰かに電話を掛けている。   「お世話になっております。今、うちの事務所にガキが2人いましてまさか小平の兄貴の知り合いとは知らず痛めつけてしまいました。申し訳ないです。ええ、ええ、わかりました。それでは失礼します」 電話が切れた。           どうやら尾島先輩に指示を出した人はこの男たちの組織の上部団体だった様だ。        「おい、お前ら帰っていいぞ。寒いからしっかり服着て出なさい」この時に俺は安堵のため息が漏れた。 助かった。。            尾島先輩と俺は肩を取り合って事務所を後にした。顔も服もお互い血まみれだ。      「龍二、こんなことになっちまって悪かったな」そう言われ俺は「最後まで意地張ってたのかっこよかったです」と返した。 あの状況で後輩の俺を庇い続けた先輩に惚れ惚れした。 事務所を出てすぐに尾島先輩の携帯が鳴った。      


今度はなんだとおれはドキドキしてる。

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