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9.11 夕景をさがしにー利尻岳③

2001/9/14

ー利尻島へ渡ったー

結局、寝付けずにそのまま23時過ぎに家を出発した。
頭がさえて仕方がなかったので、仮眠をとりながらのドライブにする。
星空は濃霧にさえぎられている国道238号線。
海岸沿いの砂浜にはサケ釣りの人々の車。
巨大なロボットのような風力発電のプロペラを不気味に感じて通過。
途中仮眠をとり、6:30、稚内市着。

 7:50発の利尻島鴛泊(おしどまり)行きのフェリーに乗り込む。
片道2等1,880円。

船名は、アインス宗谷2号

稚内~利尻島鴛泊を結ぶフェリー

いい天気。海を渡る風も心地よい。
群青色の海が輝いている。
ホントウに「あい風香る日本海」だなあ。

船上から見る日本海と利尻島

しかし、利尻島はだんだんと近づいてくるも、どんよりと雲がかかっている。

 9:45、利尻島鴛泊着。雨なり・・・
う~ん、困った。こんな最初から雨になろうとは、想像していなかった展開。
どういう行程にしようと、フェリーターミナル内でしばし2分ほど悩む。
とりあえず腹ごしらえと、近くにある「ウニ丼日本一」と看板のかかった食堂で恐縮しながら「カレーライス」(600円)を注文。お店の人と世間話をすると、今日、中学生70名程が学校登山をしているという。きっと賑やかなんだろうなあと思い、とにかく登ってみようという気持ちになる。

タクシーに乗り、登山口でもある3合目の北麓キャンプ場に向かう。旅にきているというのに時間や苦労をお金で解決している軟弱な自分にやや腹が立つも、この天気の中でまだ装備は濡らしたくない。傘も忘れた。
キャンプ場は整備のためか工事をしていた。受付をして(無料)、登山届けを書いて提出し、下山届け用に下半分を切り取って持つ。 従来より夏季の利尻岳は下山確認もできる登山届けになっている。

「これ、もらったかい?」と管理人さんに訊かれ、
「・・・?」と思っていると、携帯トイレを手渡された。これにしなさいねー、ということらしい。

携帯トイレ、中におむつのようなものが入っている


さすが環境先進地の利尻!
さて、早速、テント設営。設営をしていると、傘をさして近づいてきた旅人キャンパーが、
「いやあ~、昨日は、山、最高でしたっすね」と、誇らしげに笑って言い去る。君も少しは人に気を遣った会話をしなさいね、と内心、思う。
しばらく、ぐずぐずとしてしまう。こんな雨の中、テントの中で過ごしているより、一気に長官山まで登って避難小屋にいた方が、夕景をさがすチャンスはある。
当たり前だ・・・何しに来たんだ。

濡れるのを覚悟で、雨具を着て出発準備。
11:00、いよいよ登山開始。
アスファルトで舗装された小径は、甘露泉水まで続いている。雨の中で水など飲みたくはないが、一応飲んでおく。ここの水は、ホントウにおいしい。日本名水百選だけのことはある。
ここからは、トドマツなどに囲まれた登山道になっていく。「もののけ姫」にでてくる森林のような命のつまった貫禄さがある。

 11:45。いつもなら、あと少しでお昼休みの仕事のときだ。森の中に「野鳥の森」といつから名付けられたのか、4合目に到着。

野鳥の森

ここで、ようやく晴れてくる。森も草も輝きだす。4合目、森のようす。南西風が上空に強く吹いているよう。5合目までの真っ直ぐにつづく回廊のような登山道はササに囲まれている。歌声と笑い声が風に乗って上から聞こえてきた。と、思ったら、元気の良い中学生たちが次々と下山してきた。
トップの子は、3年生男子4名。
「こんにちはー」
「頂上まで行ってきたのかい?」
「はい!ぼくら、一番です!」と、とってもうれしそう。たくましいなあ、と頼もしく思う。
その後、登っていくたびに、次々とバラけて降りてくる中学生たちと出会う。話しを要約すると、こういうことらしい。
利尻富士町立鴛泊中学校では、利尻岳登山、屋外レク、島内サイクリングというものを3年で一巡するように行っているらしい。だから、一番ツライ登山が3年生のときに来たら、彼らに言わせるとラッキーなのだそうだ。

 ジャージにタオル、運動靴、お菓子やジュースの入ったデイバックに身を包む彼らも、さすがに頂上、もしくは途中の長官山から下山してきているので、顔以外に、膝もガクガクと笑っているよう。6合目(第一見晴らし台)から急登を見上げる。ザックと共にハイマツ帯。

 7合目からは、ダケカンバとハイマツ、ミヤマハンノキに囲まれた胸突八丁と呼ばれている急登。斜里岳にも同じ名の地点があるが、利尻岳のこれは、もっとツライ・・・長い。 

次第に足を止める回数も多くなり、そして登ってきた景色を振り返る時間もいつしか長くなる。
一心に頭の中では、長官山避難小屋に着いたら、ビールだ、ビールを飲むんだ、ビールを飲むゾただそれだけがすべての支えとなり、体中の合い言葉になっている。晴れてきた景色は、礼文島、本泊港、ポン山、ペシ岬、鴛泊港などが一望でき、海は一面に優しい色をたたえ、ササ原は緑に輝いている。

振り返ると、どこまでも青と緑が優しい。

長官山までのあと少しの岩場で休んでいた先生一人と生徒さん一人に会う。先生は、おいしそうにタバコをふかし、生徒さんの目線から眼下を指さして、
「ほら、あそこが○○だぞ、見えるだろう?うん?」
と、生徒さんに熱心に説明している。
「はあ」
と生徒さんは、のらりと答えているが、だんだんと興味が湧いている様子。いい光景だなあ、と思って微笑ましく眺めていると、
「水、要りませんか?」
と先生がこちらで立ち止まっていたぼくに唐突に言う。
「あります、あります!」
と大きく身振りも使って丁寧にお断りすると、1.5㍑のペットボトルに満タンに入った水をボンっと渡された。
「水はいくらあってもいいからねー」
と、にこやかに先生。いやあ、軽くなったなあ、と先生と生徒さんはさっそうと下山してしていった。お礼を言い、ありがたく背負わさせていただく。
13:30。長官山に飛び出ると、頭の中にある利尻岳頂上がそのままの形で眼に飛び込んできた。 風が強い。

19才、初登山のときに描いたデッサン。


長官山から望む利尻岳の姿。 

長官山では、まだ最後の中学生たちが先生たちと楽しく昼食を摂っている。みんな女子生徒さんだ。明るい挨拶が心地よい。

 長官山避難小屋は、その場所を以前の場所よりさらに15分ほど先に移動して いた。 長官山避難小屋への道のり。南西風がつよい。

利尻岳山頂と避難小屋


 デカイ、そして端正な利尻岳頂上を見ながら、太陽の光を浴び、風に打たれ、避難小屋へと向かった。13:45、到着。

 ザックを開け、いそいそと、その大切な貴重品の唯一の一本を取り出す。缶ビールをプシュ!と開け、飲む。ゴクッといかず、ドクッという喉ごしになる。ぬるくなっていたが、腐っても鯛、ぬるくてもビールである。その琥珀色の液体は、体中を駆けめぐっていった。至福である。

 中学生登山にパトロールとして同行している利尻富士町職員3名の方と会う。手には小屋内にあったゴミを持って下山していった。頭が下がります。

 建て付けの悪い扉を開ける。
 暗い小屋の中には、パタパタと窓に一匹のクジャクチョウしかいなかった。一人での夜を過ごすのかなあ、という不安は、何とかなるさと言う気持ちに変わり、なるべく窓を見ないような方向で(なんか見てはイケナイものを見てしまいそうで・・・怖がり)、荷物を整理して寝袋に入り、夕方を待つことにした。

 たった350mlの缶ビール一本で、直にぐっすりと眠ってしまった。

つづく


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