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めだかのおしくらまんじゅう

「さむくて、じっとしているのに、やめろよう!」
わさわさ。
飼い主が、ベランダにあるめだか箱の水槽たちを突然いじりはじめました。
「うわーん、さむいよう、追いかけないでくれよう」
ちゃぷちゃぷ。
ざぶんざぶん。
やがて、3つあった箱は、水合わせの儀式をおえ、大きなひとつの箱にまとめられました。
「あんさんは、どこから?」
「おいらは、エアコン室外機の上の箱からだよ、ほら、あそこ、見えるだろ」
「ねえさんは、どこから?」
「あたしは、あっちの上からよ、せまくて、あまり日射しが当たらなかったわ」
どぼんどぼん。
「あー、これはこれは、大親分、ご無事で?」
「ああ、すっかり全滅したと思われていた下の汚れた産卵箱からだよ、ほれ、ほかの奴らも健在だ、10月頃からえさがもらえなくて苦労したぜ、これでようやく生還できたわけだ」
ゆうゆう。
すいすい。
そうして、3つの箱から、およそ30匹のめだかたちが集まりました。
飼い主がスーパーからもらってきた発泡スチロール二段構えの立派なお家です。
水温と同じなのでしょう、体温7℃、平熱とでも申しましょうか。
ただ、さむいから、泳ぐときはジグザグです。
きゅーきゅーパコン。
屋根のフタも二重にあるので、さあ、これでひゅうひゅう雪が降っても、大雪になっても、ぎんぎん氷点下になっても大丈夫でしょう。
「なあ、これ、まるで2×4(ツーバイフォー)じゃないかね」
誰かが笑って言いました。
「やれやれ、こんなに集まったんじゃ、これから冷えるときには底の方で、じっと、みんなで、おしくらまんじゅうをしよう」
「そうだね、そうしよう、そうしよう」
みんながそう言いました。
きらりと水面が光りました。
2×4屋根付きめだかたちの冬が静かに始まりだしました。
ぼくらの飼い主は、無知で
心配性で、あわてんぼうです。

(初冬の12月記)

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