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記憶は場所にしか残らない。地域が守り継ぐ「生きた古民家」の暮らしとは

『「人々の記憶は場所にしか残らない」という言葉があります。何かを伝え残すときに、「書き残したり」「語り継ぐ」だけではだめで、具体的な場が必要だということです。(~中略~)佐藤家はこの土地の生活文化の記憶や、人と人の繋がり方の記憶を残し続けてくれているように思います』

NPO法人福井旧庄屋佐藤家保存会が、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で実施しているプロジェクトには、こう書かれています。

同法人が始めたのは、新潟市西蒲区福井集落において、地域住民が守り続けてきた築250年の古民家「福井旧庄屋佐藤家」を守り継ぐというもの。老朽化が進んだ茅葺屋根の修繕費用の一部として、200万円を集めています。

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建物を残すだけでなく、生きた古民家であり続ける

プロジェクトページによると、福井集落は北国街道沿いに情緒あるまち並みが残り、90世帯ほどが暮らす農村集落。自然に恵まれた豊かな環境で、地域内を流れる矢垂川沿いは、ホタルの名所となっているそうです。

そんな福井集落で唯一、茅葺屋根の姿を残すのが福井旧庄屋佐藤家(以下、佐藤家)。江戸時代後期に建築されたものが昔のまま残されています。

保存活動は、長く空き家となっていた佐藤家が「取り壊される」と話を聞いた地元の有志メンバーによって、1998年から始められたそう。保存する際、大事にされてきたのが、ただ建物を残すのではなく、活用することで“生きた古民家”であり続けること。囲炉裏では火を焚き、畑で採れた野菜で料理をつくり、釜戸でご飯を炊く。薪割りや屋根の材料のカヤ刈りなど、かつて行われていた営みが今でも続けられています。また、地域文化や歴史を伝える展示や講演会、正月行事の企画運営といった文化活動も行われてきました。

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▲カヤ刈りと薪づくりの写真。屋根の葺き替えに必要な「カヤ」や囲炉裏で焚く薪を毎年ボランティアが集まり、少しずつ貯めているそうです。

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▲正月行事の写真。毎年1月に餅つきや神楽舞、昔遊びなど、昔ながらの正月行事を楽しめる機会も作っているそうです。

佐藤家に集う人たちの中からは、新たな活動をしようという動きも生まれているとのこと。週末に農業や昔暮らしを楽しむサークル、廃村になった村の歴史文化を守り伝える勉強会・イベントの開催が行われています。

次の世代に繋げるため、移住者がプロジェクトを開始

20年以上にわたって保存活動が続けられてきた佐藤家。茅葺屋根の老朽化が進み葺き替えの時期となりましたが、保存会の立ち上げメンバーも70~80代となり、存続に向けて弱気の声も聞こえている状況といいます。

そこで今回、佐藤家と福井集落で営まれてきた昔の暮らしを次の世代に繋げるため、保存会メンバーで移住者の風間直子さんと唐澤頼充さんが、クラウドファンディングでのプロジェクトを始めました。唐澤さんは福井集落に惹かれ、移住を決めた理由について、次のように記しています。

この地域に魅かれたのは、多くの人たちが守り継いできた佐藤家を入り口に、地域の歴史や暮らしの文化に触れ、農や自然、地域のひとたちとのつながりを持つことができたからです。ソトモノだった私たちは、佐藤家に行っては囲炉裏の火焚き爺さんから昔の話を聞かせてもらったり、地域の人とつながったり、集まった人たちとごはんを食べたりするうちに、いつの間にか暮らしの一員としてコミュニティに受け入れられてもらった気がします。以来、佐藤家の掃除や屋根の材料集めや薪づくりなど、すべてがボランティアで行われている佐藤家の保存に関わらせて頂いてきました。

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▲左から風間直子さんと唐澤頼充さん

4月17日現在、目標金額200万円に対して、達成率は22%という状況です。プロジェクトページでは今回紹介した内容の他、保存会メンバーの紹介や支援金の使い道が説明されているので、関心のある方はぜひ読んでみてください。移住者らによる地域の記憶を残していく取り組み、応援しています。

(画像出典:クラウドファンディング プロジェクトページ

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