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記事一覧
男のままでかわいくなりたい目次
かっこよくなりたい編
1 マグ( くま) はすぐかわいいと言いたがる
2 ヒーローは姉
3 バリバリ・ストラップサンダル
4 ヤンキーの白袴と、僕の黒いスーツ
あかるくなりたい編
5 女の和服は色鉛筆( ためいき)
6 この生地でいいんです!
7 おじいちゃんのスーツみたいな
8 プリンに安全ピン
かわいくなりたい編
9 ピンクグレープフルーツの彼女、よろしく
10 男は2センチまでか
1 マグ(くま) はすぐかわいいと言いたがる(試し読み)
どうして彼女は平気で「かわいい」と言えるのだろうか?
結婚してしばらく経ってから、僕は熊のぬいぐるみをもらった。
僕の妻は三歳のころにもらったぬいぐるみを三十路近い今でも大事にしているほどのぬいぐるみ愛好者だ。いざ持つならば大切にしたいという意志が強く、そうそう簡単にはお迎え、つまり購入しない。しかしあるとき見かけた一体のぬいぐるみが、その決意を打ち破るほどのかわいさだったらしい。茶色い
4 ヤンキーの白袴と、僕の黒いスーツ(試し読み)
あのとき、サブちゃんの紋付羽織袴の真っ白な輝きに、「負けた……」と僕は思ってしまったのだった。
何に負けたのかもよくわからないままに。
成人式に話はさかのぼる。当時まだ実家に暮らしていた僕は、式に着ていく服に悩まなかった。少し前に姉の結婚式があり、そのときに姉の見立てでスーツセットを一式を買ってもらっていたのだ。大学生に服を新調する金もなく、わざわざレンタルを探すモチベーションもない。どうせ
6 この生地でいいんです!(試し読み)
「そんなに女物の生地がいいなら、自分で作ればいいんじゃない?」
そんなことを妻に言われた。女物の生地で男性の和服を作ろうにも、仕立てるのは高くつく。ならば、というわけだ。しかし裁縫は小学校の家庭科以来していなかった。しかも、和服など特別な知識がなければ無理だろう。不安の声が頭の中でこだまする。それでも仕事をしながら、夕飯をたべながら、トイレにこもりながらつい考える。和服を自分で縫う。インターネ
8 プリンに安全ピン(試し読み)
「ちょっと刺したくないんですけど……」と言えればよかった。それだけなのだ。
久真八志(くまやつし)というのはペンネームである。普段はこの名前で短歌を作ったり、短歌の評論を書いたりして発表している。二〇一三年、なんと「現代短歌評論賞」を受賞した。僕の人生では数少ない晴れ舞台である。そこで、授賞式にどんな装いで臨むかという問題が浮上した。スーツは気が進まない。悩むうちに、ある選択肢が浮かんだ。和服